photo by 藤田和美

Introduction
詩を詠う、インターネットを舞台に、イメージするのは渋谷交差点。
絶え間なく行き交い続けるわたしとあなたとだれかの、その微かな共有空間はけれども確かな想像の一歩となってゆく。
十の詩人が織り成す巡り合わせのポエトリーリーディング企画。

 

シブ夜コンプレックス   田辺尚

 

 

放射冷却とテキーラファイト手ぶらでアラスカの狼少女ダイヤモンドダストのひっかかる睫毛よりも冷える夜の車道からもしもし渋谷ですか————

 

 

こぼれた一粒のコンコードみたいな、だったか

明滅する性のネオン

弾けた黄色からアマランス(赤色2号)とインジゴカルミン(青色2号)  が合わさって走る信号、溶岩のタール色素!

そこら中に潮吹いてつながっている

 

 

痙攣的な瞬きの途中だった

電気ガエルの裏返った鳴き声

冷凍肉とならんでぶらさがった裸電球は真っ赤に割れて

つながったコードは乾かないまま

花のない茎みたいに漏電

廃墟の油絵に映写された

真夏の町角に落ちる影が沸騰した夜だ

憧れのロードローラーに巻き込まれる自殺者がでる夜だ

鉄道の走っていない目ん玉だけ光る銀河だ!

 

 

 

「渋谷スクランブル交差点」

————泡立っている

夜の葡萄会!

 

 

おやすみ、夜の葡萄会

葡萄の皮みたいに綺麗な思い出欲しさだったか

夜を飾りたい虫に飾りつけられる氾濫だったか

記憶のスクラップ、夜のスクラップ

 

くそったれ夜の葡萄会

ずっと同じ道がつづいているだけだ

路上でどす黒く燃えるガム

蒸発するだけのツバ

 

そして朝日、ふりそそぐ搾りかす

そして朝日、瞬きする不凍港

 

 

燃える、

 

 

 

 

夜のほんのう

 

 

 

 

 

 

Author profile

1988年生まれ。高知県出身。アノムラ(anomura)のメンバー。