photo by 藤田和美

Introduction
詩を詠う、インターネットを舞台に、イメージするのは渋谷交差点。
絶え間なく行き交い続けるわたしとあなたとだれかの、その微かな共有空間はけれども確かな想像の一歩となってゆく。
十の詩人が織り成す巡り合わせのポエトリーリーディング企画。

国の滅びを   陣崎草子

 

 

「戦争に行きたくない」とアジ響く渋谷にて観る流行りのアニメ

 

くちびるの端がいっつも切れている少女の飛ばす唾液つばき燦たり

 

少年は汗を垂らして交差点ゆく水晶製義足引きずり

 

横須賀(海ぎわ)の防衛学校軍人の心得学ぶ十六歳在り

 

平凡な苦しみだよと幾たびも教えられ教えられ教えられ

 

渋谷交差点 黒水晶(モリオン)のごとき()で物質と精神の流れを見る

 

すれちがうときその者の御魂(たましい)の清さ汚さふと香り来る

 

極まった世のおとずれを焦慮するアジの響きは恋情となれ

 

草原に(なずき)を置いてきたような気軽さ 国の滅びを見たし

 

 

 

 

 

 

Author profile
陣崎草子

歌人、絵本・児童文学作家、画家。
小説『草の上で愛を』で講談社児童文学新人賞佳作を受賞。第一歌集に『春戦争』(書肆侃侃房)、小説に『片目の青』(講談社)、『桜の子』(文研出版)、絵本に『おむかえワニさん』(文溪堂)など、著作多数。歌人・穂村弘氏の連載「短歌ください」の絵を担当している。短歌作品は、雑誌「GINZA」(マガジンハウス)にて写真家の鈴木諒一氏とのコラボレーション企画に携わるなど、独自の場での発表を続けている。

http://www.jinsakisoko.com/