文化としてのダンス
(金光正年さん 以下K):そういった流れがDAWNからNOONにあって。でも、NOONの5周年の時に、これちょっともうまずいなって思って。NOONの経営がどんどん落ちていくわけ。時代もあんねんけどな。時代がギャル系になっていったやん。ギャルファッションとか。世の中が全部そうなって。そう感じたんが、ちょうどNOONがオープンした2004年ぐらい。
―何があったんでしょう。
K 俺の分析では、ITバブルもある。ちょうどあの頃ホリエモンが近鉄買収とかで出てきたりして、何かこう「金持ってるやつが偉い」みたいな。そういう風潮になってきて。
―今もその風潮は続いていますよね。
K あんねん。何かキラキラしたもん、派手なもんが良いみたいな。俺的にはあんまり好きな時代じゃ無いねんけど。で、その中でNOONの経営もどんどん下がっていってて、5周年経った時には俺これもうあかんな、経営に戻らなあかんなと思って…
―いったん離れていたからこそ、見えたこともたくさんあったかと思うのですが。経営に戻られてまず最初に手をつけられたのは?
K やっぱ最初の計画通りカフェをちゃんとせなあかんなって思って。いまからちょうど4年ぐらい前に西宮の俺が通ってるマリーナ、俺ずっとウェィクボードやってんねんけどそこプールだけで何にも無かってん。水道も来てないし設備もあんまし。で、夏のあいだそこで仮設のカフェやろうと思って、マリーナの社長にこれプールもったいないじゃないですか、俺、仮設のカフェやりますわって言うて(笑)ワンシーズン、仮設のカフェをやったんよ。そしたら結構繁盛して。大変やったけどな、氷も無いからマリーナの建物の中の製氷機までクーラーボックス持って行って、入れて、取りに行ってのくり返し(笑)
―お得意の人力ですね。パラダイス、クラブ立ち上げの時のように。
K んで、カフェええなってなってん。俺もそんなん初めてやってん、実際にやんのは。それ経験したもんやから「行けるぞ!」てなって。次の年にNOONのマネージャーにやろうって提案して、NOON+CAFÉを完成させてん。それがちょうど3年前の話かな。
。
―2011年ごろ。すでに風営法問題で派手にクラブが摘発され始めた時期でもありますね。
K そやな、内輪でも「もうそういう時期来てんねんで」って。せやから営業とかも0時までにしててんけど…2012年の4月4日、21時43分に逮捕されてん。警察もウチが深夜やってないから、それしか無かったんやろな。「ダンスさした」ってことしか。
―びっくりしました。まさかNOONがって…
K ウチなんかやられるって思ったことないもん。近隣トラブルも無いし、昔から掃除もしっかりやってるし、0時までに終わってるし。「ダンスだけではけえへんやろう」って思ってたけど…
―実状を知らないひとからしたら「摘発か。やっぱクラブって危ないんだな」などの誤解を招く恐れも多分にあったかと思います。
K 20日間留置場に入れられて、取り調べも受けて保釈で出てきてん。でも、公判請求
されたからじゃあ、裁判しますって。留置場の中で俺これやっぱりおかしいでって思ったから、そん時の取調官に俺、風営法変えるわって言って。そこで決意してん。―経緯のなかで、金光さんが特に「おかしいで」と感じた点はどこだったのでしょう。
K 1号、3号、4号って風営法の中であって、1号はキャバレーとかみたいな「ダンスさせ飲食させ接待する」営業で、3号が「ダンスさせ飲食させ」、それで4号は「ダンスさせる」営業、これはダンススタジオとかダンス教室とかが当てはまる。ダンス教室に限っては引っかかる恐れがあるのは「ペアダンスのみです」っていう発表があったな。「ヒップホップなどの単体の、ひとり/一人称で踊るダンスは規制対象としません」と。ただし「それでもお店に面積がある場合、面積が窮屈な場合やったらそれに当たる場合もある」みたいな
。
―いまいち釈然としませんね。
K 俺留置所でほんまいろいろ考えてんやんか。でも、やっぱりダンスとして規制することにはホンマは正当性ないんちゃうかなって。他にも深夜の遊興の部分とか、例えばお店の中の照度規制、そんなんもあるけどまあそれに関してはもうしゃあないなと。やし、俺べつに暗いクラブ好きちゃうから。
―今日も明るかったですもんね。
K そうやし、基本ほらDAWNって明るかったやん。俺暗いのキライやねん、周り見えへんし。で、いまプロジェクターとかもめちゃ輝度が上がってるやんか。昔のプロジェクターは暗くせんと見えにくかったけど、今ってめっちゃ明るいやん安いやつでも。だから別に表現すんのに「暗くなくっちゃいかん」っていうのは、あんまないように思ってんねん。
―やはり、ダンスの規制という点が一番引っかかる。
K そう。やっぱりダンスって音楽とセットやったりするやん。そこを規制されるっていうのが。あとウチの場合「風俗営業が許可取れるんやったら許可取りますか」っていう質問もあってん。でもやっぱ取れへんわ。だって風俗営業じゃないもん。俺らもっと文化的なことやってんのに、そんなレッテル貼られんのイヤやわって。その部分が強くあるからダンスとして規制されることにすごい反対してんねん。たしかにクラブの中にはチャラい箱もあるけど、ウチはそうじゃないっていう自負があるから。
―たしかにクラブ=暗くて危ないところというイメージだけで規制も進んでいたように感じます。
K そんなんで括らんといてくれって。もっと違う角度から規制はできるんちゃうのって。騒音やったら騒音、迷惑行為なら迷惑行為、未成年やったら青少年保護条例で条例がちゃんとあるから、分けて取り締まってくれと。ダンスとして取り締まることに正当性ないやんけと。だから俺はそこでしか闘ってないねんで。裁判も法改正運動も。「朝まで踊って何が悪いねん」とかいってないし。
―現段階で、裁判はひとまず一通り終わられたわけですよね。
K せやな。去年の10月1日から始まって今年の1月9日でぜんぶ終わった。で、9日に警察から求刑されたんが半年間の実刑と100万円の罰金。でも、4月25日に判決が降りるんやけど俺は無罪やって思ってる。
―摘発後、しかし経営は続けていかないといけないという状況のなかで対処された方法、形態を変えた点などはありますか。摘発後、NOONが変わったところ、変えたところ。
K 今はDJによる営業はいっさいしてないな。基本的にはほぼカフェしかやってない。でも、それはこっちにも意地があったから。カフェだけで成り立たしたんねんって。やっぱクラブやってるやつはクラブしかできへんって思われんのがスッゴイいやで、俺はクラブせえへんかっても経営とかビジネスのノウハウがあるから他のことやってもできる。ただ何故クラブをやってるかっていったら…やっぱクラブが好きやし、なにより文化的やからやってる。
―カフェというかたちになっても、その理念は変わらない、と。
K そう。DAWN起こして20年経って、街も拓けてきて人も集まるようになって。で、その中崎町に訪れたお客さんの休憩場所になれるような。気軽に休憩できる、敷居の低いカフェ。でもなんかこうちょっと良い感じで過ごせる。リラックスできるような、そういう作りにしたいなあっていうのがあって。敷居の高い高飛車なお店にはしたくない。だから値段帯もかなり安めに設定してるし。でも安いからマズイっていうのもイヤやから、まあそれなりに。
―今日もカフェの奥には託児所スペースがあったり、服屋さん雑貨屋さんがあったり。占いとか。そのような文化のないまぜ感がとても面白いと感じました。
K 基本的にはお客様には優しくっていうのが、ウチのDAWN時代からのモットーやから。それはクラブであってもカフェであっても変わらず。
―スタッフの方たちの接客態度もすごいにこやかで。
K クラブ時代からツンツンしたエントランスとか好きじゃなくて。あの時点でお客さんもムッとしたりしはる。俺の経験もあるねんけど、やっぱり自分の家に招き入れるようなおもてなしの心。なんかこう言うたら2020年のオリンピックのアレみたいやけど、実はずっと言うてんねんで。
―柔らかい雰囲気づくりというか。
K そう。屈強なバウンサーというか、なんかセキュリティ立たすっていうの?あれイヤやねん。もともとの雰囲気がそうじゃなかったら、そういうお客さんけえへんやん。暴れるような雰囲気にもならへん。例えば、居酒屋にセキュリティ立ってるかって言ったら立ってないやん。それが店の雰囲気作りやと思うねん。笑顔で招いて、お客さんに優しい気持ちになってもらって、楽しんでもらう。で、不快な思いさせたらすかさず俺らとかスタッフが行って、ちゃんとこうなだめるというような。そういう対処をする。
―IDチェックとかボディチェックとかも…
K そうそう。あんなんも俺あんま好きちゃうねん。その前にもっとすることあるやろって。第一に気分を害されるやんか、お客さん。だから中で暴れるとか、繋がってる気がする。ウチはそういうのにはムチャ気使ってて、それはカフェの営業でも同じ。でも商売ってそういうことちゃうの?サービス業って。中崎町で買い物してくれてるひとの休憩場所であったり、一回NOONカフェで待ち合わせして、そっから買い物行こうとかでもいいし。そういう場所になってほしい。だから地域に溶け込めるようなカフェであってほしい。わざわざ来てもらうのもええけど、基本的には日常の中で、ちょっとライフスタイルがいい感じになる。そんな場所になれたらいいなって思ってる。
―コミュニティスペースのような。
K そうそう。
―クラブもそんな感じじゃないですか、NOONは。今日も雑貨屋があったり占いがあったり。
K だから大阪でNOONで遊んでる子たちはそれを感じてると思うわ。「NOONだけちょっとちゃうな」みたいな。