ヘッズからプレイヤーへ
-かしわさんにとって、この岸和田
とはどんな町ですか?かしわさん(以下、か) 岸和田はね、ホントわからへんすね。他とどう違うんかが。でも、いざ離れてみると、悪い意味でガサツ、良い意味でフレンドリーな町かなって。
-生まれも育ちも岸和田なんですか?
か 岸和田は岸和田なんすけど、端くれの方でね。忠岡っていう、この辺り(岸和田駅周辺)の人たちからすれば「あんなとこ、岸和田ちゃうよ」って言われるぐらいの(笑)
-『んまけ、ボコボコえぐいて』の撮影は忠岡で?
か いや、この辺りで撮りましたね。バックDJの人が知り合いのツテを頼って。「どうしても古いカメラがいい」ってなったんで、古いカメラ・レンズで撮りました。
-なるほど。EINSHTEINさんの生まれと育ちは?
EINSHTEINさん(以下、E) 僕は泉大津
です。音楽好きな人が多くて、岸和田もそうなんですけど、特にレゲエとかヒップホップが盛んな町。治安はクリーンなんですけど、とにかく小っちゃい頃からブラックミュージックに触れる機会が多かったような。—幼少期の音楽環境は?
E 7歳の時に初めて歌詞を書いて……
か 初耳!(笑)
E 小さい頃は漫画家か小説家か歌手になりたかったんで。7歳ぐらいからその3つを同時進行でやってて、その中で続いたのが歌手でしたね。
—初めて書いた歌詞はラップでしたか?
E いや、最初はバンドのソロからですね。RADWIMPS
に憧れてたので。
—その歌詞の内容とかは……
E うーん…「エメラルド」とか何とか書いてた記憶が(笑)
か 出てきたときメッチャ恥ずかしいよな(笑)
E メロディも全部覚えてるんすよ。
か 俺、この前実家を離れたんすけど、そん時に掃除してたら昔の曲とか歌詞が出てきて。中2の時にやってたバンドのやつで、ぜんぜんラップとかじゃないんですけど。それを聴いたら、恥ずかしいんですけど、めっちゃ泣いてもうて。最近、英語表記の“kashiwa”って名前でひっそりと活動してるんすけど、そのアルバムにも多分入れるし、“kashiwa”のライブではすでにちょいちょい唄ってる(笑)
—ひっそりと(笑) 英語表記に変えられたのは?
か 変えたっていうより同時進行っすね。最近『psychedelic earth 』ってアルバムができたんすけど、リスナーが付いていかれへんくって。“かしわ”とのギャップに。“かしわ”で岸和田っぽいガサツな感じ……ガチャーってした感じやったのが、急に繊細でネガティヴな感じになったから。「何これ?」って(笑) それやったら、もうクッキリ分けようってなって。
—“かしわ”の由来も気になってました。
か だんじりの青年団のあだ名なんすよ。岸和田に「かしみん焼き
で、青年団では芸もやらされるんですよ。「1年目の奴、なんかおもろいことやれ」みたいな。そこでノリでラップやったのが、ラップの始まりでしたね。
」って食いもんがあるんすけど、先輩から「お前の顔見てたらかしみん食いたくなってきた。今日からかしわな」って言われて(笑) 周りも「かしわええやん」って。気付いたら、本名知る人の方が少なくなって(笑)
で、青年団では芸もやらされるんですよ。「1年目の奴、なんかおもろいことやれ」みたいな。そこでノリでラップやったのが、ラップの始まりでしたね。
-青年団には何歳ごろから所属されていたんでしょう?
か 高1から入りましたね。正式に。
—EINSHTEINさんは、だんじりは?
E 僕も中3までやってました。僕の地域は中学生から青年団に入れて。でも、高校に入ったら真剣に音楽やろうと思ってたんで、中学まででしたね。
-高校生ラップ選手権のOPでも紹介されていましたが、EINSHTEINの由来は科学者のアルベルト・アインシュタイン
からですか?
E そうですね。そっから取ってはいるんですけど。あっちは誰でも知ってる名前じゃないですか。誰もが「あの科学者ね」って。それを超えるインパクトというか、アインシュタインって聞いたら「ああ、あの歌手の」って感じになりたくて。だから、ひとつの目標として名前にしたところがあります。
-音楽との最初の出会いは覚えていますか?
E もともと家族がすごい音楽好きで。おじいちゃんがのど自慢で優勝したりとか。小っちゃい頃におじいちゃんの家にいったら、とんでもない量の賞状やトロフィーがあったんすよ。後々聞いたら、それが全部音楽の関係だったり。あと、お母さんの影響も強いですね。今もお母さんに「昔なに聴いてた?」って教えてもらったりしてますね。
-お母さんは、EINSHTEINの音源を聴いてるんですか?
E 聴いてますね。2階で制作してる時に、なんか聞こえんなぁって思ったら、1階で僕の音楽を大音量でかけてたり(笑)
-お母さんのお気に入りの曲は?
E たぶん『ロンリーナイト』って曲が一番好きやと思います。最近、下拓さんのアルバムに入れてもらった曲で、すごい評判も良かったんで。
か ウチのおかんは、まだ俺の曲好きじゃないと思う。『psychedelic earth』を出した時に、勝手に聴いたみたいで「あんたどうしたん?」って心配されたし(笑)
—なるほど(笑) かしわさんと音楽との出会いはどうだったのでしょう?
か うちのおかんとお姉ちゃんが、とにかくSMAP
ばっかりで。どこに行くにしてもSMAPのCDがかかってて、小っちゃい頃はSMAPしか聞いたことなかった(笑) でも、小3の時に家にパソコンが来て。当時、おもしろフラッシュってのが流行ってたんすけど、ネットで。そん中にたまたまBUMP があって。「なんやこれは」ってなって、その辺りからCDを掘るようになった。BUMPから、くるり にいって。くるりから、なぜかジザメリ にいって。そっから、がっつりバンドの方にハマっていって。-数珠つなぎ的に。
か ほんで、そん時におかんがケツメイシ
にハマりだしたんすよ。その影響でケツメイシを聴き出してから、ラップってもんがあるんやなって。ケツメイシのRYOがやってるタサツ ってユニットがあって、下ネタクルーなんすけど、曲もほぼ意味がないようなやつ。そっからタサツの関連で、なぜかキミドリ にいって、やっとヒップホップに辿り着いたっていう(笑)-タサツとキミドリという振れ幅は“かしわ”と“kashiwa”のルーツとも繋がってきそうですが。
か でも、根本はSMAPっすね(笑) 今思うのが、SMAPのアルバムって間違いないんすよ。アイドルって自分らでアルバム作ってるわけじゃなくて、その年その年のすごい作曲者たちの大集合やから、絶対間違いないってことに最近気付いて。
E その年に話題になったバンドの人たちの作詞があったり。
-なるほど。
E 僕の願望なんすけど 、いつか誰かに作詞してもらった歌詞を唄ってみたい。藤井フミヤ
さんとか。か 「誰の歌詞が好き?藤井フミヤ」みたいな。
E チェッカーズ
がすごい好きで。か でも、アインは順調にステップを踏んでいってるよな。かしわレコードネクサス、今んとこって。ええ感じに踏み台を作っていってる感じする(笑)
、E 今のところには迷惑をかけまくってるんですけど……
-と言いますと?
E 僕は制作スピードがあんまり速くないんで、アルバムのリリースもずっと待ってもらってて。それでも良い仕事を振り続けてくれるので、頑張らなって思うんですけど。
-完璧主義なんですかね?
E どうしてもメロディーが気になってしまうんですよ。あと、歌詞が1文字多いかなとか。聞こえ の問題で、この言い回しって違和感があるなとか。例えば、僕がかしわくんだとして「俺がかしわ」ってラップの中に入れるじゃないですか。でも、それをハッキリ発音すると…
か うん、ダサい(笑)
E 一方で、英語っぽくするのも嫌なんですよ。でも「俺はかしわや」って言うのを伝えたい時に、それをどういう言葉で唄ったら良いのかって考えてしまったり。あと、あるメロディーに言葉をハメる場合に、始まりの母音は絶対に「い」じゃなくて「あ」やろうとか。ひとつの文章をハメる時も、前の文章が「い」の母音で終わってたら、始まりが「う」だったらオカシイやろうとか。SMAPさんや藤井フミヤさんじゃないけど、聞こえの良い曲って音と言葉の選択が完璧にこなされてる。
-先日、海外(フィリピン)に行かれたのも、その壁を越えようと?
E まあ、8割方は英語の勉強のためですけどね。ぜんぜん英語ができないんで、英語を音楽にも活かせたらぐらいのつもりで。
-渡航中、滞在先は知り合いの方の所ですか?
E いや、セブ
の学校に通ってたんですよ。寮付きの学校に1ヶ月通って、マニラではホテルを取って。
-帰国後、レコーディングはされたんですか?
E レコーディングはまだですけど、歌詞だけはどんどんと溜めていってて。セブ島ではあまり大きな声が出せなくて、唄ってたら警備員が来て「Be quiet!」みたいな(笑)
1ヶ月丸々唄えなかった状態やったんで 、帰国後は歌詞を書いて、それにメロディをつけたり、これまでのものを書き直したり。
1ヶ月丸々唄えなかった状態やったんで 、帰国後は歌詞を書いて、それにメロディをつけたり、これまでのものを書き直したり。
-うっぷんを晴らすように。かしわさんは留学を考えたことは?
か 実は俺ぜんぜん海外に興味なくて(笑) どっかで日本語最強説みたいなんを信じてて。日本語って悲しい表現に向いてるから。
-「悲しい表現」ですか。
か 例えば、歌詞を書くときでも、1曲だけでは作られへんくて。アルバムから作るんですよ。アルバムの構成から書いていく。なんて言うか、ひとり死んでしまった人がいました、じゃあその人の過去は、誕生は…って辻褄が合うように1曲1曲を作っていきたい。そうなると日本語の中でも過去形の悲しさってムッチャ重要なんすよ。「俺は死にたい」じゃなくて「死にたくなった」ってなると、すごい悲しい表現になるから、それがすごい好きで。 英語の過去形って「ed」ついても、そんな悲しくなれへん。まあ、日本人やからそう考えるんかわからへんけど。
E 歌詞の中で英語はちょこちょこ入れるけど、過去形の英語を使うって人はほとんどいないですよね。他のところではメッチャ使えるけど。例えば「たぶん○○だ」って言うのに「たぶん~」って唄ったら変やけど「maybe~」って唄ったら聞こえが良くなったり。
か たしかに。英語ができるようになったら見方変わるんかね。
E 「英語だけでやってく」みたいなことは考えてないんですけど、1曲ぐらい英語詞の曲があってもいいかなって。
か 俺が英語で書いたらなんか薄くなりそうや……浅い知識でいくから(笑)
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