旧作2本の名画座スタイル
―まず、目を引いたのは2本立てで800円という料金設定ですが。
(亀谷さん 以下K) そうですね。まず東京の名画座ですと、目黒シネマ
あと、今こういう名画座スタイルの映画館が全国的に少なくなってしまったものですから。うちの経営者は堀部といいますけれども、館主の堀部にこういう名画座スタイルを是非残したいという想いがあって。
様が2本立てで1,500円という料金設定になさってるんですけども、ただあそこの場合は名画座と言いながら封切りから半年ぐらいのものをかける。それに東京ですから当然テナント代なり、諸々の経費が高いエリアだということも想像できます。つぎに、岐阜のロイヤル劇場 様 が、あそこは1本立てなんですが、昭和の古いフィルムを1本500円でやってらっしゃる。値段の基準にしたのは、その二つですかね。あと、今こういう名画座スタイルの映画館が全国的に少なくなってしまったものですから。うちの経営者は堀部といいますけれども、館主の堀部にこういう名画座スタイルを是非残したいという想いがあって。
―堀部さんとのお付き合いはどれぐらいになりますか?
K うちの会社は『有限会社プラザ知立』といいまして、いま収益の中心は下のテナントにも入っていたパチンコのお店なんですけれども、もともと私は下のパチンコの事務所の手伝いをしておりました。ですが、ここの映写技師がフィルムの映写技師で、デジタル映写機の操作がもう出来ないと。70代、80代のスタッフなものですから。コンピューターの操作をする、その対応が出来ないんですね。ですから、当時パチンコの事務所にいた僕が応援として来まして。転属っていうんですかね。うちの会社に僕がお世話になってから、もう6年近くになりますが、その中でこの映画館に来たのはこの2年半程の間、最近のことでございます。
―転属の前から、映画に興味は?
K 大好きでしたね。名古屋市内までもよく映画を観に行くぐらいに。ただそのいわゆる映画の業界人、映画関係者ではなかったものですから、全くゼロからのスタートで。映画とずっと関わってきた、館主の堀部に教えてもらいながら、少しずつやり始めたという。
―上映内容はどなたが決めているんですか?
K いま現在は、スクリーン1の内容を堀部が、スクリーン2の内容を僕が、というのが大まかな担当です。スクリーン1では主に新作を上映します。新作といっても、東京や名古屋に比べれば1ヶ月遅れになったりすることもあるんですけども、なるべく新作を、しかも最近のデジタル映写でやるのがスクリーン1、そして、昔の作品を安価で2本立てでやるのがスクリーン2です。
―お二人で話し合いながら。
K 基本的には僕が発案して、堀部社長を説得することが多いように思います。社長はアクション物の、ハリウッド映画が大好きなものですから、黙ってるとスクリーン1も2も全部ハリウッドのアクション物で埋まってしまう。ですが、それだとお客様の層が限られてしまいますので、その中に変わったものを割り込ませていくのが僕の仕事・役割だと思っています。「社長、最近これ流行ってますよ」とか、たまにはちょっと嘘もついて、流行ってなくても「流行ってます」とか言いながら、多様な作品を入れていく。女性向けのしっとりとした映画とか、若者向けの、ちょっと僕らの歳では理解できないような映画でも敢えて入れていかないと、お客様の幅が広がらないので。
―ときに、社長と言い合いになったりとかは?
K そういうのはないです。全然ないです(笑)ある程度、社長がまず入れたいのを入れて、自分は余った上映枠に他の作品をスッと入れるだけなもんですから。
―その「他の作品」には亀谷さんの好みも含まれているのでしょうか?
K 例えば、この山下敦弘監督
の新作の場合は、スクリーン2で過去作を取り上げました。あと個人的に僕が好きなものを探す場合もありますが、決して僕は映画に詳しくないので、詳しい方々に頼ることがほとんどですね。あそこに貼り紙が、付箋がいっぱい貼ってあるんですが、あれは全てお客様からのリクエストです。過去に観て良かったとか、見逃したから改めて観たいとか、その中から探してくることもよくあります。
―好みやリクエストの中から2本立てに収まるものを選んでいくと。
K 最初は3本立ての話もありました。ただ、3本立てだと、あまりにも長くて。お客様が疲れちゃって、もうこれは無理だろうと。今はもう完全に2本立ての方向ですね。
―作品を選ぶ際、他にこだわっていらっしゃる点などはありますか?
K あとは、全国的にもフィルムの上映をできる映画館が減ってきているので、うちの映写機の機械が壊れるまでの間はできるだけフィルムの上映をしていきたいなと。
―壊れるまでとは?
K 修理というか、ほとんどの映写機メーカーがもう廃業してしまっているので、最早メンテナンスをする人がいないんですね。ですから、この35mmフィルムの映写機が動いてる限りは、なるべく続けていきたいと思っています。デジタル映写の方がたしかに画質はきれいですが、雰囲気や、色味などフィルムにしか出せない味もあります。これは専門家の方からお聞きしたんですが、極端な言い方をするとデジタルが1と0、黒と白の間の色を出せないのに対して、フィルムはその途中の色も表現できる、と。その違いから色の深みや奥行きが生まれてくるそうです。お客様の中には、そのような深みや奥行きを愛する方だったり、一度人生経験としてフィルムを見ておこうという方もいらっしゃって。ですので、話が飛びましたけれども、個人的には古いスタイル、フィルムの映画をできるだけやるというのが一番心掛けていることですね。
―その選んだフィルムをスタッフの映写技師さんたちがかける、と。
K はい。今現在、技師が二人おりまして、ひとりがムカイ、もうひとりがタカハシというんですが。ムカイ、タカハシがともに80代と、もうかなり高齢です。おじいちゃんで作品については要領を得ないものですから、「『おとぎ話みたい
』って、どんな映画?」って聞いても「よう分からん」ってお客様に言うくらい。ただ、映写技師としてはフィルムを繋いだり、セッティングをしたり、きちんとした仕事をしてくれるので。
―その方たちが上映する作品を選んだりということは?
K そのようなことは今のところありません。ただ、例えば今週からこういう物販があるよとか、今週のプログラムはこういう操作が必要だよってことは、毎回きちんと引き継ぐようにしていますね。
―なるほど。その「プログラム」なんですが、企画自体の発案は主に亀谷さんがされているんですか?たとえば他の映画館を参考にされたり、この企画はやられたなと思われたり。
K 参考というのもおこがましいんですが、名古屋の単館系の映画館でヒットした映画はなるべくチェックするようにしています。例えば、『百円の恋
』という安藤サクラ さんの映画。あれは名古屋のシネマスコーレ でしかやらなかった映画なんです。ですので、名古屋で流行った映画を参考にすれば「名古屋まで行かなくてもウチで見れる」という方が確実に来て下さるので。後出しジャンケンですね。ただ、これはひらめきの意味合いでいうとたいしたひらめきでもないので。実際の数字を見て「名古屋で流行ってるからウチでもやる」という程度ですからね。―映画祭や物販、トークショーなどでも。
K 今浮かんだのは、京都の立誠シネマ
様。最近映画館がどんどん廃業していって、映画館を経営する会社がどんどんと無くなっていく一方で、市民が映画館を運営しようという動きが出てきていまして。立誠シネマさんは確か廃校になった小学校の教室を映画館にして、市民のみなさんとともに運営をされているという話を聴いたことがあります。あと、新潟のシネウインド 様も一度映画館が廃業されたあと、市民の人たちが出資して市民映画館として生き返らせたという経緯があったそうです。
―市民と劇場が手を取りあって、場所を残していく。
K そういうところは面白い企画も多いですね。シネコンではかからない映画を見つけてくるので。その映画館に集まった人たちが皆で相談して「これはどこの映画館でもやってないけど、ぜひ見たいよね」っていう作品を見つけてくる。その動きはこちらもホームページなどを見て勉強させてもらっています。僕よりはるかに詳しい映画ファンの人たちが見つけてきた映画をかける。そして、それはちっちゃい作品、予算の少ない作品かもしれませんが、すごく面白い作品が出てくることもあるので。それを観てから、ウチも上映させてくださいとお願いしたことは過去にもありましたし、これからもあると思います。
―商売からは少し離れた、映画館のかたちですね。
K いま名画座がどんどんと減っています。以前は新橋文化劇場
ただ、逆に参考にするようなところが減った分、気は楽になりました。新橋なんかで、ものすごい渋い2本立てがあった時は「ああいうのに比べると俺が考えたのはダメだ」って思うこともありましたから。そういう映画館が減った分、今は逆にやりたい放題で、おこがましいながらも、競争相手は少なく、気楽にやれるような気がします。
様といって、東京の新橋のガード下に映画館があったんですけど。去年の秋まであったのかな、そこが廃業なさったもんですから。新橋文化劇場様と、あとは池袋の文芸坐 様のラインナップは気になっていました。そのような5年前、10年前の映画で2本組む映画館が今日本の中でも無くなってしまったので。
ただ、逆に参考にするようなところが減った分、気は楽になりました。新橋なんかで、ものすごい渋い2本立てがあった時は「ああいうのに比べると俺が考えたのはダメだ」って思うこともありましたから。そういう映画館が減った分、今は逆にやりたい放題で、おこがましいながらも、競争相手は少なく、気楽にやれるような気がします。
―そういった場合の目標というのは?
K 黒字です。あくまで黒字。仕入れ金額を満たすだけのお客様に来ていただくこと。それとこれは冗談半分で聞いていただけると嬉しいんですが、そこの最寄りの駅の名前が【刈谷市駅
】というんです。ですが、遠くからお越しになるお客様の中には隣の【刈谷駅】で降りてしまう方もいて。【刈谷駅】で降りて、「駅に着いたんだけど、映画館がない」と電話がかかってくることがあります。名前が紛らわしくて、さらにこっちの駅の方がちっちゃい駅なもんですから。ですので、この先の目標としては、そこの駅の名前を【刈谷日劇前駅】に変えられるぐらいに、存在感を出せたらいいなと。冗談半分ですけども、それぐらいの勢いで会社が残ればいいと思いますね。
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