place
NOON + CAFE
日本 • 大阪府 • 大阪市

Introduction

たとえば。カフカ『審判』の主人公のように、
もし、誰かが「何もわるいことをしなかったのに、ある朝、とつぜん逮捕され」てしまったとしたら。
あるいは。大阪・中崎町のNOONのように、
もし、どこかが「無許可で店内にダンススペースを設け、客にダンスをさせていた」ため、ある夜、とつぜん摘発されてしまったとしたら。
一年間の訴訟を終え「おれが今なしうる唯一のことは、冷静に処理してゆく理性を最後まで保つことだ」とつぶやいたその主人公にならってこう始めてみたい。
ぼくたちが今なしうる唯一のことは、NOONのこれまでとこれからを-元経営者、金光正年さんに-理性を保って聴くことだ。

Interviewee profile
金光正年

大阪市生まれ、大阪市育ち。
Paradise, Dynamite, Antenna, DAWN, NOON, NOON + Cafe等を手掛けたプロデューサー/企業家。CLUB NOON元経営者。
現在は、風営法に関するダンス規制法改正運動や、それに伴う運動「Let’s Dance」の中心人物としても活動している。

かけあわせの美学〜遊ぶ場所を創り続ける〜

―何十年かクラブに関わられてきてやり始めた時と今で変わったと感じるところはありますか?
K 俺のなかでやっぱクラブシーンってヒップホップから始まってるような気がすんねん。そのヒップホップが変わっていくのと同時にクラブシーンの在り方も変わっていってるっていう感じもすんな。なんかこうZEEBRAくん(※1)とかがやってるギャングスタラップ(※2)だけがヒップホップだと思ってるひともいるかもしれんけど、DJKRUSH(※3)とかもヒップホップやし、マルコム・マクラーレン(※4)もヒップホップやってたし。で、またヨーロッパに伝わったヒップホップも色々とカタチを変えてテクノと一緒になったり…
―ドラムン・ベース(※5)になったり
K やっぱスゴい可能性を広げたと思うわ。いまや「ある決まりごとの中でないとあかん」っていうのが無くって、ものすごい多様性がある。だからそれは変化といったら、それこそ変化しっぱなしとちゃうかな。でも、今よりももっと自由に色んな表現があってもいい。それは映像もそうやし、照明もそうやし、もっとリンクしてやっていったらいいと思う。
―フライヤーの話もそうでしたけど、「かけあわせ」の美学というか。
K そうそう。そしたらもっと広がりを見せるやん。最近の風潮として一極集中みたいなところがあって、なんか大きいのがすべていいみたいになって。例えばいまEDM(※6)が流行ったら、みんなEDMの方にいって、パーティではDJがスターみたいになって大勢を躍らせる。それがいいんだみたいな。いやそれもええかもしれんけどもっと多様性があって面白いシーンはあるんやでって。既成概念っていうのをまずは白紙にして、ほんで積み上げていくっていうのが大事なことやと思うな。
―それを踏まえたこれからの金光さんご自身のヴィジョン。NOONも含めたシーンがどのように発展していってほしいか、あれば聞かせてください。
K 俺個人のヴィジョンで言えば、まずカフェを多店化していこうと思う。ライブもできるカフェをつくったり、カフェだけのカフェをつくったり。それも多様やねんけど、そういうカフェチェーンをつくっていきたいなって思ってる。で、それとは別に、この風営法の改正運動で俺が目指してるのは、自分がするせえへん関係なしに優良資本の企業とかがクラブに参入してきてほしいなって。例えば、俺の友達でもいま大規模ホテルの、大型商業施設のプロジェクトがあって、その中にクラブをつくるかどうかっていう話をしてる。風営法が改正されたら作れる。改正されへんかったらナシ。みたいな。
―クラブ、というか場自体をもっと広げていこうということですか?
K てか、すでに大阪駅とかでは年に何回か大阪駅の何々の広場(※7)みたいなとこでクラブパーティーみたいなんやってたりしてんねん。DJ呼んで。んで、そういうのがもっと一般的になっていってくれてたら、DJとかアーティストとかが活躍の場っていうのん、そういうのが広がるなと思う。で、そうなったら、もっとこう音楽シーンが変わってくるんちゃうんか。それがほんまに根付いてくるやんか。色んなところで大規模なクラブが出来たり、ちっちゃいクラブもいっぱい出来たりして棲み分けもちゃんと出来るようになる。そしたらほんまに新しい音楽に触れる人、若い人がもっともっと増えていって、あの、テレビとかの音楽ランキングも変わってくるやろう。まあ、音楽ランキングのチャートは変わってほしいと思うわ(笑)
―なるほど。そのための第一歩というか、具体的なアイデアはありますか?
K うーん、結局は多様性っていう話やねんけど。社交ダンスとかペアダンスの人らおるやんか、あれ今までクラブに入ってなかってん。でもそういうのんもクラブに入れたらええねん。俺その社交ダンスのパーティーとかも行ったことあんねんけど、結構オトナの良い音楽が流れてる。例えばガラージュ(※8)とか、マーヴィン・ゲイ(※9)とかかかってんねん。ほんだら、社交ダンス専属のDJがあってもおかしないんちゃうかなとか。んで、昨日イベントやった中でBLITZ AND SQUASH BRASS BAND(※10)っていうのがライブやってくれてんけど、それ観て女のお客さんがばんばんサルサ踊ってんねん。で、言われてん。「金光さんあれね、あのバンドそのままで、みんな社交の人踊りますよ」って。そうなんや!って思って。
―すばらしい。
K 今社交の人って60歳以上の人ばっかりやねんて。もう高齢化して、若い人が全然入ってけえへん。でもそれはそういうシーンがこれまでなくって、社交ダンスはこんなもん、古臭いもんみたいな感じやってんけど。もともとはものすごいかっこよくてお洒落な感じのもんやから、そういうのも取り入れて、根が増えていったらもっと面白い可能性も出てくるんちゃうか。
(※1)ZEEBRA
日本のヒップホップMC。93年にK DUB SHINE、DJ OASISと共に”KING GIDDRA”を結成。95年に”空からの力”をリリース。KING GIDDRA活動停止後は、ソロ活動を主とし、DRAGON ASH、EXILE等のメジャーレーベルのアーティストとの客演も多い。
(※2)ギャングスタラップ
ギャングスタラップはヒップホップのジャンルの一つであり、ハーレムから派生した。ドラッグ、犯罪行為等、歌詞の内容も過激な内容が多いのが特徴の一つである。スヌープ・ドッグ、NWA、2PAC、Dr.Dre等が代表的なアーティストである。
(※3)DJ KRUSH
クラブシーン黎明期から活躍するDJ、ターンテーブリスト。80年代後期に、MURO、DJ GO達と共に”KRUSH POSSE”を結成。KRUSH POSSE解散後、90年代に入るとソロとして活動を開始し、その独創的なトラック群がイギリスを拠点とするレーベルMO’ WAXのジェームズ・ラベルの目に止まり、94年にアメリカ西海岸のDJ、DJ SHADOWとカップリングで12inch”KEMURI”をリリース。その前衛的な音楽群はDJ SHADOW達と共に、トリップホップというジャンルを産み出した。現在までに8枚のアルバムをリリースしており、アメリカ、ヨーロッパ各国で高い評価を得ている。現在もワールドツアーを頻繁に行っており、数多くのオーディエンスを魅了し続けている。
(※4)マルコム・マクラーレン
1946年生まれのイギリス人である彼は、プロデューサー、アーティスト、ファッションデザイナー、企業家等、多くの顔を持っている。パンクカルチャーの雄、セックス・ピストルズの産みの親としても知られている。1983年には、当時最先端の音楽ジャンルあったヒップホップを取り入れたアルバム”DUCK ROCK”をリリースし、その前衛的な音楽は、当時大きな話題となった。
(※5)ドラムンベース
登場時はジャングルとも呼ばれており、90年代初めにイギリスで産声を挙げた音楽である。ヒップホップ、レゲエ的な要素を多く含んでおり、クラブではMC達と共にGIGを行うことも多い。BPM160前後の高速のビートと太いベースラインを特徴としている。現在では、そのシーンはアメリカ、ドイツ、ブラジル等世界各国にムーブメントが広がり、ボサノヴァ、JAZZ等の音楽に影響された楽曲も多く、現在も発展し続けるクラブミュージックである。
(※6)EDM
エリクトリック•ダンス•ミュージックの略。広義的にはテクノ、ハウス、ドラムンベース、トランス、ダウンテンポ、ブレイクビーツなどの打ち込み系の音楽ジャンルを指している。しかしながら、近年ではプログレッシブハウスやダブステップなどの音楽ジャンルの一つとして確立され始めており、その意味合いが変わり始めている。
(※7)大阪駅の広場
JR大阪駅構内には、JR大阪駅リニューアルに伴い風の広場、太陽の広場など八つの広場が作られた。その中の風の広場では、野外クラブイベントが行われたことがある。また、JR大阪駅構内の他の広場でもサルサのイベントなど、様々なイベントが開催されている。
(※8)ガラージュ
New Yorkの伝説的ハウスDJ、ラリー・レイヴァンがDJを行っていたディスコ、”パラダイス・ガラージ”で、彼がプレイしていたハウスミュージック、ディスコ等を基礎とする音楽ジャンル。
(※9)マーヴィン・ゲイ
アメリカ・ワシントンD.C出身のソウル、R&Bシンガー。1971年リリースのシングル”What’s Going On”はアメリカを始め、世界中でヒットした。アメリカの音楽誌”ローリング“でも、「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第6位に選ばれている。その類まれな才能は、ニューソウルという新たなジャンルを確立し、現在のR&Bシンガー達にも多大な影響を与えている。
(※10)BLITZ AND SQUASH BAND
1997年結成の、大阪を拠点に活躍するニューオリンズブラスバンド。ニューオリンズブラスバンドという、トランペット、トロンボーン、サックス等、電子楽器を使わないジャンルを演奏している。日本各地を始め、本場ニューオーリンズ等、世界各地で精力的なライブ活動を行っている。2012年には、アメリカ、L.Aのレーベル、Blue Train Productionより、4thアルバム”Atomic Energy”をリリース。
―こないだ友達とフラメンコのイベントにいったんですけど、ちゃんとシーンがあるんですね。
K あんねんあんねん。
―分け隔てなく広くシーンとして捉えていけば自然と対外的なイメージも良くなっていく。
K うん、俺クラブはほんまにな可能性いっぱいあると思うねん。それがクラブかどうかはわからんけど、一応、総称としてクラブとして言うけど、そういう可能性がいっぱいあるもんやと思ってる。
―もともとはクラブって自由なところでしたもんね。服を売ったりマガジンとかも置いてあったり。
K まだまだ出来ることはいっぱいあると思う、発想変えたら。それをなんかクラブは終わったとか言うてるアホみたいなんTwitterでいっぱいいてるけど、全然そんなんちゃうよって。そこをただの空間として考えて、その空間をまたデザインすることも出来るし、そこでの遊びをクリエイトすることもいっぱい出来るから。終わったって言う奴はその頭がないだけの話で。
―その人の中の文化が終わっただけだと。
K うん、そいつがよう遊ばんだけの話。実際やっぱりブロックパーティーとかでそういうのって自分らで遊び場をつくったシーンなわけやんか。クラブってのはやっぱりそういうのが根源なんで、自分たちでクリエイトして遊び場をつくっていくっていうのが大事。自由な発想でもっと色々出来る。
―今回、風営法を抜きにしても、NOONといったら大阪の中で、関西でも、先駆者みたいな役割を果たされてきた金光さんが、これからもし同じように活動を始めよう、まあ同業者じゃないですけどそういった方たちにここにはこだわってほしいとか、もし始めるならこういうとこにはアンテナ伸ばしてほしいという点はありますか。
K きちんと分けてほしいかな。まず、営業としてするならやっぱりそこはサービス業であったり、そういうビジネスの部分もしっかり自覚もってやってほしい。あとクリエイティブの方でやるんにしても良い部分を残しながらバランスよくやってほしい。「俺らは文化をつくってるんだ」って言うて、もう採算度外視、それってどうなんかなって。ちゃんとそういうバランスは必要や。あと、過去の先輩たちのことを見ながらそれをちゃんと享受した上で新しいことをしたり、ちゃんとその守るべきところはちゃんと守って。それを知らんかったら、逆に自分たちは新しいつもりでやってても「いやそんなもん過去になんぼでもやってるよ」ってことはあるから。
―過去を学びながら現在を楽しむ、と。あと実際に現場(クラブ)で活動されてるアーティストへメッセージとかありますか?
K メッセージはやっぱりな、基本的に積み重ねることは大事やで。0(ゼロ)から1をつくるってものすごいエネルギー要るやんか、でもそれを一回やったぐらいじゃなかなか認めてもらわれへんというかそれは身にならない。それをやっぱり積み重ねて、これでもかこれでもかってやることが、結局将来に繋がっていくことちゃうかなと思うから、諦めんとやってほしいなと思うわ。
―わかりました。それでは最後に。パラダイス立ち上げ時から今も変わらずに大阪で活動されているのは、やはりこの土地へのこだわりが強いのかなと感じたんですけど。
K あるある。俺はめちゃくちゃある。何回か「東京でやらへん?」って声もかけてもらったけど…。
―やらなかった。
K この2年間で法改正運動で東京行ったり色々話を聴いたけど、土地代が高すぎてクラブで自由な事でけへん。結局は、お金優先なの。それは思うな。で、それともうひとつはやっぱり、大阪の人の感覚。例えば大阪で人に道尋ねたら、オノマトペ(※11)っていう、その筋ガーッとまっすぐ行ってスッコーン左に曲がって、ああいう擬音使う。だけど、感覚というか、こう右脳派の人が結構多いやんか、大阪って。感覚的に。クラブシーンって結構右脳よく使う文化やから。感受性というか。そういう意味で大阪の方がちょっと俺には肌に合ってるし、面白い。もうごちゃごちゃええねんって、大阪の人って。結構その感覚的っていうのが好き。ぐちぐち言うより。そんな感じ。なんか文章でも比較的惹き込まれる文章って、生の文章の方が面白かったりせえへん?難しい言葉ワーッて並べた文章ってあんま惹き込まれへんし、そういう感じかな。

『SAVE THE CLUB NOON』予告編
let's DANCE!

let’s DANCE!

NOON + CAFE

NOON + CAFE

2013.03.01 NOON+CAFEにて
(※11)オノマトペ
オノマトペとは、擬声語を意味するフランス語である。「ドカーン」などの擬音語、「ニヤニヤ」などの擬態語を包括的に指した言葉であり、物事の声や音・様子・動作・感情などを簡略的に表した表現方法である。