anomura

すてきな声に、会いにいこう
Illustrated by © 2017 タジマ粒子 / TAJIMA PARTICLE
interview - 日本, 愛知県, 刈谷市, 刈谷日劇

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Introduction
「街から映画の灯を消してはならない」 他のインタビューで堀部社長によって語られたことば。 今回われわれが行ったのは、そのことばの焼き直しであった、といっても過言ではない。 刈谷という「街」とは? 話し手にとっての「映画」とは? そして、半世紀以上にわたって刈谷日劇が守り続けた「灯」とは? まずはこの劇場が開館した1954年、旧ユーゴスラビアに生を受けた ひとりの男のことばから始めよう。 この物語は終わらない。(エミール・クストリッツァ『アンダーグラウンド』) それは終わり、ではなく始まりのことばであったはずだ。
Interviewee profile
亀谷宏司

黒部市生まれ、富山市育ち。有限会社プラザ知立の社員として刈谷日劇の運営に携わる。担当するスクリーン2は「昔の秀作・名作を選りすぐって2本立て」で編成するといった名画座スタイルで、その内容は全国の映画ファンから好評を博している。
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堀部俊仁

刈谷市生まれ、刈谷市育ち。大学卒業時から現在まで刈谷日劇の運営に携わる。有限会社プラザ知立代表者、愛知県興行協会理事長、そして映画『ラブ&ソウル』の出資者と多彩な顔をもつ劇場の首領。
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映画館を経営するということ

―刈谷日劇さんも様々な企画を催されていますよね。上映にともなって監督の方を呼ばれたり。
K 呼ぶというか、ご好意で来ていただいてる場合がほとんどですけどね。それもだいたいがノーギャラなので。ほんとうにありがたいばっかりなんですけども。例えば監督さん、俳優さんの舞台挨拶なんかをやると、そこには当然その監督さんたちのファンが集まってくれます。もともと趣味が近いお客さん同士ですから、打ち解けるのにも時間がかからない。監督さんの話や作品の話を通じて、すぐに仲良しな感じになれますし、それは家でビデオを観ていても得ることができない体験だと思います。
刈谷日劇 内観

刈谷日劇 内観

―通常の料金設定しかり、刈谷日劇さんの試みからはどうしても「儲けよう」という匂いが感じられない。これは何故なのかと不思議に思っていました。
K 実際にはですね、どう説明すればいいのか。たとえば舞台挨拶込みの一つのイベントを入場料1,700円に設定したとします。その額は監督さんなら監督さんと相談して決めるんですけど。1,700円の場合、通常うちのレイトショー料金が1,000円なので、いつもより700円多く頂戴しているわけですよね。お客様から。その上乗せした分は交通費に充てるんですけど、うちはそもそもが小さい、満員になっても50席とかの映画館なもんですから。お客様にも納得していただけるのではないでしょうか。これくらいの規模なら、これぐらいの料金だよなって(笑)
―その「料金」と絡めて、たとえばフィルムの仕入れ値などはどのように決められていくのでしょうか?差し支えのない範囲で良いので。
K まあまあ下世話な話ですけれど(笑)映画の仕入れの場合、料金の考え方が2種類ありまして。
「来ていただいたお客様の数に応じて売り上げを分配します」っていう買い方と「とにかくこの映画を何万円で買い切ります」っていう買い方。一般的に前者は【歩合計算】、後者は【フラット料金計算】と呼ばれています。それで、【歩合】の時はお客様の数が100人でも1人でも、実際の興行収入を劇場と制作側と分けるだけなので。ですが、【フラット】は違いますよね。【フラット】で、はじめに10万円なら10万円で料金を決めてしまうと、例えお客様の数が少なくても、その料金は必ず払わなければいけません。なので、【フラット】の時に監督さんの舞台挨拶なんかが叶えば、経営上すごくありがたいわけです。もちろん、こういう事情をわかった上で来て下さる監督さんもたくさんいらっしゃいます。「助けになるように僕行きますよ」って。
―なるほど。
K たとえば【フラット】の場合、同じ映画をもし東京でやったらとか、どうしても都会の判断基準が多くなります。ただ、うちの場合はまずはうちの状況を理解してくださって、というか、交渉のごとに一生懸命説明をするんですね。「お客様が◯◯人しか期待できないので、この値段にして下さい」とか。時価っていうと変な話ですけど、決まりがある訳じゃなくて、うちの状況に合わせて映画会社・配給会社様が値段設定をして下さることが多いです。交渉によってはとうぜん涙を呑む場合もありますが、それは収益を上げられないうちが悪いので。
―例えば「上映はしたい、しかし値段が届かない」という作品も?
K 大手の作品なんかはほとんどがそうですね。ディズニーとかハリウッドの作品になると、お値段が高すぎて、やりたいけど買えない。そんな作品はいっぱいありますね。ただ、本当の大手じゃなくて中堅どころの映画会社・配給会社様ですと、「刈谷日劇なら、どうせそんな売り上げは出ないだろうから、この値段にしてあげますよ」とか。ディスカウントというか、社内で話を通して下さった上で安く仕入れさせてもらうこともあります。
あと、今年の正月にやった『サウダーヂ(※1)』なんかは、配給会社を通さずに映画監督なりプロデューサーに直接お願いをしました。これは山梨県の地元の方たちが撮った作品で、一時期は都市部でも公開されていたんですが、その後一切公開もDVD化もされてなくて。でも、評判だけがものすごく良くて「観たい人は山程いる、しかし上映の機会が少ない」という作品だったので。インターネットで関係者へのルートを探して直接に「是非うちでやらして下さい」と。
(※1)サウダーヂ
富田克也監督作品。2011年公開。過酷な状況で生きる移民労働者達の姿を描く。山梨県甲府市出身の監督が、同市を舞台に実際にそこで暮らす人々をキャスティングして制作。
https://www.youtube.com/watch?v=9dlaZcbfrqA
―直談判もアリなんですね。
K 年に2本か3本ですけどね。そういう変わった映画を見つけてこないと、お客様に動いていただけない、っていう危機感もあるのかもしれません。
―逆に、制作側から上映を持ちかけられることも?
K 声を掛けていただくことはたくさんあります。「こういう映画ができたんですけども」って。そのような声にはできるだけ応えていきたいのですが、やはり全てという訳にはいきません。例えば、日本中でやるような作品なんかは近隣の映画館でも観ることができますので、上映しないことが多いですね。「集客が見込めないもので」って。先程も言いましたが、やはり少し変わったもの、その時期うちでしか観れない作品を選ぶようには心掛けております。
―他の映画館では観ることができない作品を、ということですね。作品選びは、だいたいどのくらい先まで決まっているものなのですか?
K だいたい季節の分をまとめて仕入れますので、冬のうちに春の仕入れを、春のうちに夏の仕入れをダッとしていく感じですね。まあ、お客様からのリクエストしかり、候補はいっぱいあるので。あとは、それを映画の配給会社と交渉するだけの話ですね。とくに2番スクリーンに関しては、何をやるのかを悩むことはないです。
ただ「これをやりたい、あれをやりたい」というのがいっぱいあっても、お値段の都合で諦めたり、あと海外の映画だとすでに権利が切れてる作品もありますので。「俺らとしては別に安くしても良いんだけど、そもそも上映ができないんだわ」って配給会社様から断れる場合もあります。
―権利が切れていたら流せないんですか?
K 配給権の問題ですね。DVDにして売ったりする権利とはまた別で、映画館で興行するための権利。その権利を日本の配給会社は、まず映画の製作者(権利者)側と結びます。僕が聞いている範囲だとだいたい5年とか10年とかの単位で買い付けることが多いそうですが。とくに昔の海外の名作とかだと、その期間が切れていることが多いんです。そうすると配給会社様としては、倉庫にフィルムが残っていたとしても、それを日本で上映する権利自体がもうない、「上映できないんだわ」と言わざるを得ない。
(※2)本と活字が好きな人たちのための2作品
2015.1/17~1/30 @刈谷日劇
本と活字が好きな人たちのための2作品
―なるほど。そして交渉の果てに残った映画を2本立てとしてパッケージ化していくと。『本と活字が好きな人たちのための2作品(※2)』のようなタイトルをつけて。あのタイトルは亀谷さんが?
K そうですね。まあ、タイトルっていうほどのものでもなく、「2作品とも本だしなあ」とか「この季節にはあんな行事があるなあ」とか、適当も適当で。お恥ずかしい限りです。あ、でもこれ『女子力(=無敵)!』は良かったかな。とにかく「女の人向けですよ」っていうのを一生懸命言いたくて。キャッチコピーとしてはヒドイと思うけど(笑)
―いえいえ(笑)キャッチコピーも含めて、これまでで手ごたえのあった企画、印象に残っている企画などはありますか?
K さっきお話ししていただいた『本と活字が好きな人たちのための2作品』、これには本当にたくさんのお客様に来ていただくことができました。海外から無理矢理引っ張ってきたので、黒字にもなりましたし。なので、今のところ、うまくいった企画のナンバー1はこれですかね。それから、この資料よりももっと古いんですが、去年の夏に『キル・ビル(※3)』という映画をやりまして。
『キル・ビル』はテレビでもやってたり、レンタルビデオにも人気作品として並ぶ、有名な映画。だいたいどの方も1回どころか2回3回と見たことがある映画なんですが、それにもかかわらず流すと来て下さるんですよ。それはおそらく、「当時のままのフィルムと大きいスクリーンで『キル・ビル』が見れること」にお客様が価値を見出してくれたと思っています。なので、なんなら今年ももう一回やろうかなと。商売的にもそうですが、「あそこは毎年『キル・ビル』をやる変な映画館だ」というのは宣伝効果があるので。
―インパクトがありますね(笑)
K そうなんですよ。なので次回は1と2で『キル・ビル』シリーズの2本立て(※4)をやろう と思っています。そして、それを「フィルムでやる」ということを一生懸命宣伝していきたいですね。
(※3)キル・ビル
クエンティン・タランティーノ監督作品。2003年公開のアメリカ映画。かつてのボスに夫とお腹の子どもを殺された元殺し屋の女が、日本刀を携え復讐の鬼と化す。

(※4)『キル・ビル』シリーズの2本立て

2015.10/31~11/13 @刈谷日劇
『キル・ビル』シリーズの2本立
Place info:
刈谷日劇
〒448-0821 愛知県刈谷市御幸町4丁目208

愛知県の刈谷市にある映画館。1954年に洋画専門館として開館。現在は洋画新作中心のスクリーン1と、邦画・洋画旧作、単館系作品を中心としたスクリーン2のふたつのスクリーンで営業を行う。またスクリーン2ではデジタル映写機での上映と並行し、アナログ映写機での上映もあり。最寄駅はJR刈谷市駅。
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