Introduction
2013年9月21日、第4回高校生ラップ選手権。
赤坂BLITZのステージ上を2つの新星が通過した。
「最高の公然わいせつがしたい」
「本家(アルベルト・アインシュタイン)よりも有名になりたい」
大胆な予報、当日の閃きによって、2つの星は一躍、時の人となった。
あれから3年。彼らの原点、そして現在の軌道とは。
和泉の町の中心で、2人の星に声を聴く。
1-3ページ…かしわ/EINSHTEINインタビュー
4ページ…かしわ本人による『pshychedelic earth』全曲解説を掲載
月と太陽
-お互い以外で、同世代でスゴイなと思ったアーティストはいますか? ライバルというか。
E 僕の同級生でレゲエをやってる子たちがいるんですよ。中でも
VIGORMAN と
海人 と
陸 っていう3人は本当に悔しいぐらい上手いです。音源もライブもめっちゃカッコ良くて。ジャンルも違うし、ひとりひとりの立ってる場所も違うから、ライバルって訳でも無いんでしょうけど。でも、なんか悔しいなって思います。曲を聞くたびに「悔しい、もっと頑張らな」って思うんですよね。
-かしわさんは?
か かしわレコードに
LOWZA っていうラッパーがおるんですよ。もともとは高校のツレの知り合いで、音源を聞いたらめちゃくちゃ上手くて「あ、俺ラップやめよ」って(笑) そう思ったのは LOWZAが初めて。あいつはラップは間違いなく上手い。
-同世代を離れて、音楽シーン全体ではどうでしょう?
E 僕はAPOLLO(※1) さん。中1の時に『MAYDAY』って曲を聞いて、衝撃を受けて。今もずっとファンでアルバムもまだかまだかと待ってる。
(※1) APOLLO
「大阪出身の平成生まれのニューフェイス。中学生の頃よりHIPHOPのラッパーとして活動を始める。2007年、初めて目の当たりにしたREGGAEのRUB A DUBに衝撃を受けてREGGAE DEEJAYへと転向。現在、待望の1stアルバム制作中」
-APOLLOさんのどんな所に惹かれますか?
E なんでしょうね。ここがって言えないぐらい、すべてが好きで。メロディも歌詞も声も。僕の中で一番理想の音楽をやってるんですよ。最初に聞いた『MAYDAY』は多分APOLLOさんの中1の時の実体験なんですけど 、その世代の気持ちを本当に綺麗に書いてて、「わあ、分かってる!」って(笑)
-かしわさんはどうでしょう?
か 色々おるんすけど、最近は津野さん(※2) がスゴイっすね。津野米咲。赤い公園の。聴きやすいんやけど、ちょっと懐かしいみたいな。
あとは、やっぱりZAZEN(※3) の向井さん。あの人の歌詞は、現実に非現実を足すんですよ、非現実的な表現というか。「女の子が街を歩いてた」って現実に 、「鉛のなんちゃら」や「銃弾のなんちゃら」っていう非現実なことばが入ってくる。カッコ良いけど、そのままやったら絶対「向井のパクリや!」って言われるから、俺は逆に非現実的なストーリーの中に現実味のある言葉を足していったりしてる。
(※2) 津野米咲
赤い公園のギター・コーラス担当。バンドのリーダー。1991年10月2日生。楽曲の制作及びプロデュースを手掛ける。
(※3) ZAZEN BOYS
向井秀徳、吉兼聡、松下敦、吉田一郎による4人組のロックバンド。活動期間は2003年~。代表曲に「KIMOCHI」「Honnoji」など。
-かしわさんたちの世代から、向井秀徳の名前が上がるのは意外な気もします。
か くるり、スーパーカー(※4) 、ZAZENって最強じゃないすか。小っちゃい頃に3つとも好きになったんすけど、中でもZAZENはダントツ変なクセがあって。ギターの人とか可哀想になるぐらいの曲とかあるじゃないですか(笑)ひたすら長い「そんなギターソロの時間は無いやろ。死んでまうで」って思うぐらいの(笑) ぶっ飛んでるし、ほんまにカッコいい。
-なるほど。いつか夢の競演を楽しみにしています。今後の目標や展望などはありますか?
E とりあえず、僕はアルバムを完成させて、発売してツアーをやりたいです。ベストなものを作って、オリコンにも入りたいし、Mステにも出たい。今年はとりあえず“EINSHTEINの音楽”をもっともっと飛躍させて、日本中の人に聞いてもらえるようにしたい。
-ゆくゆくは世界に?
E そうですね。でも、まずは日本のオリコンで1位を取りたいです。絶対に。
(※4) スーパーカー
中村弘二、いしわたり淳治、フルカワミキ、田沢公大による4人組ロックバンド。活動期間は1995年~2005年。代表曲に「WHITE SURF style.5」、「YUMEGIWA LAST BOY」など。
-かしわさんは?
か とりあえず“かしわ”で『ぼこぼこエグいて』みたいな分かりやすい曲を作るんで(笑) 笑われてもいいからそれを作って、売って、“kashiwa”の方でほんまにオナニーなライブがしたいっすね(笑) 一曲一曲セットリストが違うような。ムダに金だけ使ったステージで、淡々と下向きながら唄ってるみたいな。ほんで、最終的にはマニアックなアーティストになりたい。「かしわって知ってる? 平仮名と英語両方で出てんねん」「知らん、何それ」みたいな。こいつなんなん? 何がしたいんかわからん、何がしたいんかわからんけど……みたいなポジションがいいです。
-ミュージシャン以外の展望はありますか?
か 脚本を書いてみたい。それで一個なんか映像を作ってみたいなって。ボツになってばっかりなんすけど、この前『小説と過去』ってシングルを発売した時に、トレーラーとして『プロフェッショナル仕事の流儀』のパロディをかしわレコードのYouTubeに載せました。
-ドキュメント風の。
か 長いフリのしょうもないボケ。淡々と真剣に続けて「普通やなあ」って思わせた最後に、めちゃくちゃしょうもない(笑)みたいな。
-EINSHTEINさんはどうですか? 音楽以外にやってみたいこと。
E 映画の主演ですかね。俳優デビューというか。映画が昔からすごい好きで、いまだに週5本くらい観たり。
―オススメの映画はありますか?
E 『グッドウィルハンティング(※5) 』ですかね。マットデイモンの。自分が生まれた年にできた映画なんですけど、高1の時に観て、これまでに20回は観ました。あんなに心を惹かれる映画は他になかった。
-映画は洋画が多いですか?
E そうですね。日本の映画も観るっちゃ観るんですけど、8割洋画、2割邦画ですかね。旧作のコーナーとかから、タイトルでグってきたものを手に取って、裏面のストーリーを見て「これよさそう」って借ります。ちょっとシリアスな、問題を抱えているようなストーリーに惹かれることが多いですかね。
(※5) グッドウィルハンティング
(原題Good Will Hunting)1997年(米) 監督:ガス・ヴァン・セント 出演:マット・デイモン、ロビン・ウイリアムズ、ベン・アフレック
その数学の才能を見いだされながら、トラウマに苦しむ青年と妻に先立たれた心理学者の交流を描いた作品。マット・デイモン、ベン・アフレックは脚本により、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、心理学者ショーンを演じたロビン・ウイリアムズはアカデミー賞助演男優賞を受賞した。
VIDEO
-少し脱線するのですが「もし生まれ変われるなら」とか考えたことはありますか?
E 人ですか?
-人に限らず生物でも非生物でも。こんな生き方ができたらなあとか。
E 猫ですかね。僕が結構な猫マニアで、ほんと妄想がスゴイんですよ(笑) 常に猫のことを考えてるというか、想像してるんで、猫になれたら自分の飼い猫とも話せるんじゃないかなって。話したり、覆いかぶさったり(笑)
-友だちのような感覚ですね(笑) 飼い猫の名前は?
E りんです。最近だんだんとテレパシーを感じるようになってきて。アルバムのジャケットでもりんを抱きたいって思ってます。
愛猫のりんちゃん
か アインの前世は絶対動物やな。
E なんでですか?
か 動物好きな子って、絶対前世が動物なんよ。んで、人間にひどいことされてるんよ(笑) 異常に動物が好きやったり、どっかで「動物には優しくせな」っていうのは、その人の前世と関係してる。
-生前や死後の世界ですか。
か 現在、地球上で俺らからしたら、ピラミッド上で考えると人間が一番上やん。でも違うような気もする。人間目線やから一番上やと思うだけで、逆に蟻からしたら蟻が一番なんかもしれへん。あと、神様。人間の考える神様って、人間のカタチしてるじゃないですか。でも、多分違うと思う。例えば、太陽かもしれへんし。
-「ヘリオス=太陽神」ですね。
E 僕もそんなこと考えます。「俺って記憶を消されてるだけで、実は違う世界の生物なんじゃないか」とか(笑) 実は死んでるんじゃないか、もう死んだ後で今ここが天国なんじゃないかとか。
か あり得るな。俺らが幽霊を見て「うわ!」ってなってるのと一緒で、幽霊から見たら「うわ!人間や!」ってなってるかもしれん(笑) 『バースデイ』って曲がそれで、あっちでバンって殺されたら、こっちで生まれました、みたいな話なんです。
-霊の存在は信じるほうですか?
E 僕UFO見たことあるんですよ。中学生の時にボクシングやってて、11時半ぐらいに帰ってたら、橋の上でいきなり花火が上がって。何やろって思ったら、思いっきりUFOなんですよ。
か え!
E びっくりしすぎて、とりあえず写真に撮ろうと思ったんですけど、写らないんですよ。目の前にあるのに。で、お母さんに電話して「いま目の前にUFOおる!」って言ったんですけど「何言ってんの、はよ帰ってこい」って(笑)
-冷静ですね(笑)
E テンション上がって、いやおるねんて!みたいな(笑) おんねん!写真撮っても写らへんねん!って(笑)
か でも、おらなおかしいって思うよな。おらんのがアタリマエになってきてるけど、まだ人間が解明してない物質や生物がいないとおかしい。星が1個あったら、宇宙人じゃなくても、人間のカタチとは別の生き物がたくさんおって。こっちから見えてないだけかもしれんし(笑) 可能性はあるかなって。
-なるほど。では、最後にファンの方たちにメッセージがあれば、聞かせてください。
E とりあえずファンさんには……。
か ファンさんって何やねん(笑)
E いつも応援してくれている人には感謝の思いしかないですね。音源を聞いてくれて、ライブにも来てくれて。とりあえず、ホントにありがとうございます。あと、曲を出すペースが早くないので「ごめんなさい」っていう気持ちと。今年はアルバムも出したいし、ツアーもやりたいので、もう少し楽しみにして待っていてもらえたらと。
-ありがとうございます!かしわさんはどうでしょう?
か “かしわ”の方では分かりやすい、流しながらでも「はいはい」っていう曲を作るんで(笑) そっちを好きな人はそっちを聞いてください。ほんで“kashiwa”では「一周回って考えたら面白い」みたいなアルバムを作るんで(笑) 俺の頭が好きな人は“kashiwa”を聞いて下さい。
-好みに合わせて、ですね。
か とにかく俺を好きになるんじゃなくて、アルバムを好きになってほしいっす。曲を好きになるのも良いんですけど、そういう人は多分“かしわ”が良いんかなって。
“kashiwa”の方はアルバムとしての「ひとつの街」を好きになってほしい。「こういう世界があるんやで」っていうのを深読みしながら。あえて分かりにくい表現を使ってるんで一個一個「あら?ん?うん!?」って。「この言葉はこうなんかな」とか「シンプルに言うてるけど、絶対に違うな」とか。そんな感じで深く聴いてほしいっすね。
かしわ/EINSHTEIN近影③
2016.03.30 フジヤにて
conclusion
2014年11月13日、駒沢オリンピック競技場のトラック上に1人の新星が誕生 した。
現役の高校生が世界最速の4足ランナーに。
その見出しはすぐにセカイへと拡がり、やがて語り草となった。
あれから2年。彼がいま、どこで、何をしているのか。詳しくはわからない。
しかし、世代の声は必然的に互いの“いま”を引き寄せる。
いつ、どこで、何をしていても、彼らが星である限り。
息をしてる 息をしてる 今を見てる 今を見てる 誰かに誇れるものではないが 終わった時 後ろに歴史があるはず
(かしわ『小説と過去』)
直後に謳われるリフレイン。「ピースに行こう」
その声は彼/彼らに響いただろうか。
【関連記事】
4足走行とギネスレコード。玉腰活未さんインタビュー