place
喫茶フジヤ
日本 • 大阪府 • 岸和田市
illustrated by © タジマ粒子

Introduction

2013年9月21日、第4回高校生ラップ選手権。
赤坂BLITZのステージ上を2つの新星が通過した。
「最高の公然わいせつがしたい」
「本家(アルベルト・アインシュタイン)よりも有名になりたい」
大胆な予報、当日の閃きによって、2つの星は一躍、時の人となった。
あれから3年。彼らの原点、そして現在の軌道とは。
和泉の町の中心で、2人の星に声を聴く。

1-3ページ…かしわ/EINSHTEINインタビュー
4ページ…かしわ本人による『pshychedelic earth』全曲解説を掲載

Interviewee profile
かしわ

岸和田の端くれ生まれ、岸和田の端くれ育ち。SMAP、ZAZEN BOYSなどの影響を受け、16歳の時、本格的にラッパーとしてのキャリアをスタートさせる。第4回高校生ラップ選手権(2013)出場時には、その類まれなパフォーマンスによって、審査員を務めたDABOから「日本語ラップの国の王様になれるかもしれない」と評された。同大会の前後に仲間たちと“かしわRecords”を結成。今後の目標は「マニアックなアーティスト」

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EINSHTEIN

大阪生まれ、音楽育ち。RADWIMPS、APOLLOなどの影響を受け、14歳の時、本格的にラッパーとしてのキャリアをスタートさせる。第4回高校生ラップ選手権(2013)出場を皮切りに、新レーベルとの契約/「THIS LOVE」、「SHU BE DO BA」で立て続けにiTunes HIPHOPチャート1位獲得と圧倒的な速度でスターへの街道を駆け上がった。今後の目標は「オリコンチャートで1位/ミュージックステーションへの出演」

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高校生ラップ選手権のその後

-最初におふたりが出会われたのは?
E 高校生ラップ選手権(※1)のオーディションですね。
(※1)高校生ラップ選手権

「BAZOOKA!!!から生まれた最強イベント【高校生RAP選手権】。不良、ネットラッパーなど個性ある素人の高校生たちがそれぞれの生い立ちを全面にぶつけ、同じ土俵、同じルールでフリースタイルのラップMCバトルを展開。普段絶対に交わる事のない高校生たちが、ラップを通して、友情を育む熱い青春バトル!」

(BSスカパー!HPより引用)
か もともとアインの兄貴と自分がクルーを組んでたんすよ。
-お兄さんですか。
E かしわくんの話は聞いてて、曲も知っていて。でも、顔はぜんぜん知らなかったんで。それで、オーディションには僕ひとりで行ったんですけど、ブラついてたら、なんかサイファーやっていて。「もしかして、あれがそうかな」って思って声かけて、それからずっと仲いいです。
か めっちゃ変な目で見られてたな、あのサイファー。
E そうでしたっけ?
か そうそう。周りガチ勢ばっかの中、MCポテトとかがサイファー始めたらさ、だいたい内容が下ネタになるやん(笑) 「なんやコイツらフザけてんのか」って目で見られてて。
-サイファーというかフリースタイルについてもお聞きしたかったんですけど。あれって事前にある程度、言葉を考えて臨まれるものなんですか?それとも完全にその場の即興で……
E 僕は「だいたい、どんなことを言おうかな」みたいなことだけを考えておいて、本番で音が流れ始めたら本気で考えるみたいな。事前には考えてもコンセプトだけですね。
か 俺は高校生ラップ選手権が初めてのバトルやったんですよ。
E 僕もです。
か で、考えやなマズイってなって、最初は考えまくってた。でも、いざ舞台に上がったら真っ白になってパニクった(笑) うわ、これ考えたらアカンわってなって「考えずに適当に、とりあえず相手の言ってること聞かな」って感じになっていって。だから聞き返すと、俺ぜんぜん韻踏んでないんすよね(笑) 最後の1文字だけ。
E バトルは心臓に悪いですよ。
か ほんま心臓に悪い。メンタル弱い俺らには無茶。
E 僕は最初で最後のMCバトルがラップ選手権やと思ってます。
か 無理やな。シラフじゃ無理(笑)
-出場前と出場後で環境の変化はありましたか?
E 環境は180度変わりましたね。出る前は自分のことを誰も見てくれていなかったし、音楽関係者の知り合いも誰もいませんでした。地元で友達とやっているみたいな。それが出た後でガラッと変わって、知名度も上がって、色んな人と知り合って。楽曲制作もスムーズにできるような環境を与えてもらえるようになったんで。ホントに出て良かったと思います。
-かしわさんはどうでしょう?
か なんていうんすかね……まず、そもそも音楽始めた時に絶対売れるわけがないと(笑) 絶対売れることはないし、売れたくないみたいなとこがあったんですよ。あんまり、売れてないアーティストが好きというか。だから、そんな願望も無かった時に高ラに出たもんやから。
-そこで一躍、時の人に。
か イベントに呼ばれて、知ってる人がいてくれてるってのはすごく楽しいです。ただ、ライブハウスとかで全然知らん人が「下ネタJポップクルー(※2)」とかを見て、冷やかしの目でニヤニヤしてくるあの感じもすごい好きやったんすよ。それが一気に無くなってしまって寂しくなった時期もありましたね。
YouTubeバラエティ番組(自作)、たまにのLIVEを主としたグループ。現在のメンバーは、かしわ(ボーカル兼MC兼トラックメイカー)、MCポテト(MC)、新加入メンバー、イケメン俳優熊野北斗(俳優兼音出し)
-“かしわ”の印象が付いてしまった。
か 「あんな曲を、あんな曲を」みたいなんがスゴくて。『愛のコンチータ』とかコントやのになあ、みたいな(笑) 設定「AV好きのオッサン」みたいなコント。AV女優も色んな人がおるけど、やっぱ古いやつ、オッサンって「昔は良かったやん」って言うじゃないですか。そんな感覚で歌詞を書いてるのに、それがその人やと思われる。今の職場が芸人さんばっかりやから、彼らと話してて通じるなって思うのが、コントとかで名が売れたら、芸人としてじゃなくてそのコントの人としてテレビとかに呼ばれる。その使い方がメディアの好きな使い方なんやなって。
-それを超えるための“kashiwa”であり『psychedelic earth』だったと。抽象的な質問かもしれませんが、おふたりにとってのフリースタイルと音源の違いってどんな所でしょう?
E フリースタイルも音楽なんですけど、やっぱり音源こそが本物の音楽やと思うんですよ。音源は、本当の作り込んだ自分をフルで出した音楽じゃないですか。フリースタイルは即興性を求められるし、気楽にできる部分もあるけど、完成度としては満足できない。だから僕はあんまフリースタイルを他人に見せたくないんですよ。それは自分が納得いったものを見せたいんで。
EINSHTEIN instagramより

EINSHTEIN instagramより

-これまでの中で一番「完成形」に近付いたと思う曲は?
E やっぱり、クオリティー面では『ロンリーナイト』が一番高いかなって。メロディーも以前の僕が完全に納得のいったもんやったし。今はもっとイケるって考えですけど。
-留学も経て。かしわさんはどうですか?
か フリースタイルは、なんかもう悪あがき(笑) 「おい、今ギャグせい」っていう感覚ですね(笑) 音源に関しては、単曲で作るのがほんまに難しくて。だから、アルバムを作る時はひとつの村を作る感覚なんですよ。『psychedelic earth』のジャケットみたいに、モヤモヤしてるんやけどカラフル、色んな人がおるんやけど全部繋がってる、みたいな。
-曲を作る時はサンプリングが多いですか?
か ヒップホップのときはサンプリングですけど、ぶっちゃけサンプリングってめっちゃ簡単なんすよ。でも、もうちょっと「ドロドロしたんが作りたい」ってなった時は楽器を使いますね。ギターをシワッシワにしたり、歪ましたり、リヴァーヴかけたり。で、完成した時は「これはスゴイ!」ってなるんすけど、次の日に聞いたら「これは絶対売れへん!」って(笑)
E ありますよね。何時間もぶっ通しで考えて、完璧や!と思って寝て、起きたらクソやんみたいな(笑)
か 実際売れへんしね、そういう曲は。
E 歌詞もそうで、夜に書いて満足していたものを翌朝、読み返すと「頭オカシイやろ」って(笑)
か そうそう。意味分からん歌詞を書いてたり。
かしわ instagramより

かしわ instagramより

-曲や歌詞の制作は室内が多いですか?
か 部屋っすね。全部自分の部屋で。汚い音が好きなんすよ。現代の音楽シーンには適さんような。リサイクルショップで1000円とかで買ったSONY(※3)のカラオケマイクとか、安っすいギターとか、うちの姉貴が一時「保育士になりたい」言うて買ったキーボードとか。結局その夢は3ヶ月で無くなったんすけど(笑) そのキーボードをアンプに繋いで「ピーッ」て。楽譜も読まれへんから、感覚だけで鳴らしたやつをマイクで拾って、それにリヴァーヴかけたりとか。
-感覚で(笑)
(※3)SONY

日本の大手AV機器メーカー。特に、イメージセンサ、コンソールゲーム(家庭用ゲーム専用機)においては、世界トップシェア(2015年)を誇る。音響機器の分野においても「ウォークマン」をはじめとした幅広い製品の開発、製造を行っている。
か ギターもバンドマンが聞いたら「ナメてるやんコイツ」って思うぐらいの(笑) でも、一応ヒップホップの作り方なんすよ。短い音を切って並べて、ループさせる。継ぎ目もプチッ、プチッって途切れるんすけど、そのプチプチも好きで。
-ヒップホップ=発明のような。EINSHTEINさんは歌詞を書く時は室内ですか?
E 2曲だけ、外で書きました。『This Love』と『SOS』って曲なんですけど。高1の時に夜中の2時くらいに川に行って、なんか知らんけど、その時は1時間で2曲書けたんすよ。それで、録ってバッと配信したらすごい評判良くて。それ以外は全部部屋ですね。朝起きて「よし、やらなあかん」みたいな。勉強みたいに、朝から起きてずっと夜中まで。
-その時って手書きですか?
E 僕は手書き派です。ノートにシャーペンで。携帯とかパソコンで書くときもあるんですけど。それだと、何か感情がこもらないんですよね。
か 俺はiPhoneやな。ふと書きたくなることが多すぎて。常に持ってるのって携帯やから、浮かんだ時にバーって書く方が。
E 携帯に書くのって怖くないですか?データ消えたりとか。そういうのが嫌なんですよね。
か 手書きは字が汚すぎて見えへんのよね。あと携帯って何日って出るやん?保存した日が。それが良くて。並べた時に「○月○日の俺こんなこと書いてんのに、次の日はこんなん書いてんねや」って。そういうのがすごい好き。
-最終的に1曲1曲が繋がりを持つようになってるんですね。歌詞を書いてるとき、リスナーのことは考えますか?自分はこう表現したいけど、伝わらないんじゃないかとか。
E そうですね。あまりにも分かりにくい、自分しか意味の分からない言葉は書かないですね。
昔は「まずこれを言って、最後にこれを言ってるから、実はこの2つが重なり合ったらこうなる」とかやってたんですけど、今は「これを伝えたいのに、伝わらんかったら意味ないやん」って。それやったら、複雑にはせずに簡単に真っ直ぐに。
か 自分は超複雑ですね。絶対分からんやん。聞いてても。
E 自分は理解してるけど、聞いてくれる人が理解できなかったら、それはスゴい悔しいなって。
か 俺は「深読みしてるやつだけ分かってくれ」って。「これ全部自分だけしか分からんな」って。『skit0』とか、アインのこと考えてたで。
E なんでですか?
か 俺が鬱病になった時に書いてるから。そん時に車の中で、こんなん出来たぞって『SOS』を見してもうて。それをスゴイ覚えてて。お前はこうや、お前はこうや、っていうストレートな歌詞やな、アインは強いなって。やから「SOSが出せるお前は強い」って歌詞を中に入れて。
E びっくりですね。
かしわ/EINSHTEIN近影①

かしわ/EINSHTEIN近影①

-おふたりが思う、互いの「強さ」はどんなところでしょう?
E かしわくんはホントに、音楽オタクやなあ、と思います。ここまでで勘付いてると思うんですけど(笑) ひとつひとつの話が完全にストーリーを持ってて、それをめっちゃ楽しそうに話すから。ホンマに音楽好きなんやなって。あと、歌詞の書くスピードとか、曲の制作スピードもスゴイんで。そこも学ぶ部分ですね。
か アインは単曲の爆発力がハンパない。1曲バンって出した時の。それは聞いただけで、分かんねん。うわー!おー!みたいな。なんていうんやろね…1曲で 「はい、チャーハンです」っていうのが、アイン。「はい、チャーハンで作るご飯です」っていうのが俺(笑)
-何曲かで完成!みたいな(笑) 今後おふたりで曲を作る予定は?
E 僕がかしわくんと同じ会社やった時に「いつ出そか、いつ出そか」って感じになってたんですけど、結局流れてしまって。今も作りたいとは思うんですけど、僕も会社が変わって「なんか、どうする?」みたいな(笑) まあ、いつかは絶対やると思うんですけど、今のタイミングじゃないかなって。
か ふたりとも30代になったら(笑)
かしわ/EINSHTEIN近影②

かしわ/EINSHTEIN近影②

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