はじめてのヨンソク
―4足走行を始めたきっかけは?
(玉腰くん 以下T) 『探偵ナイトスクープ
』という番組で、いとうけんいち さんを目にしたのがきっかけです。最初は驚きだったんですけど、軽いノリで「自分もやってみようか」みたいな感じでやってみたら…―のめり込んでいった。
T そうですね。斬新というか。なんか楽しいなって。
―『探偵ナイトスクープ』を観たのはいつ頃?
T 大体3年前ぐらいですかね。自分が高校に入る前くらい。
―その頃にはもう陸上を?
T はい。陸上部で走り幅跳びをやっていました。
―そんな時に、いとうさんの姿を観て興味を持った、と。最初の場面は覚えていますか?初めて4足で走行した時の。
T テレビを観た1年後くらいに友達といとうさんの話題になって。やってみたら、すごく難しかったです。身体をどう動かしたら良いのかも分からなくて。
―それは学校のグラウンドとかで?
T いや、最初は近所の公園で。友達にフォームを見てもらいながら始めました。最初は本当に「楽しいな楽しいな」でやっていたんですけど、そのうちに記録がどんどんと速くなっていって。
―記録ですか?
T 公園で適当に50mをメジャーで測って、そのタイムをストップウォッチで。
―計測は友達が?
T そうですね。あとは兄や妹にも協力してもらったり。
―最初の頃のタイムとかは…
T たしか50mで13、14秒ぐらいだったと思います。
―最初の感覚はどうでしたか?感触というか。
T なんかこう…新しい感覚でした。地面と近いので景色も変わって。それと疾走感が2足の時とは全く違いましたね。
―4足だと、スタートは後ろの足からですか?
T そうですね。最初は後ろ足からパパッと。一瞬2足っぽい動きになるんですけど。
―後ろ足で駆け出して…
T 分かりやすく言うと、前足・後ろ足・前足・後ろ足の連続ですね。
―右・左・右・左とかではなく。
T それだと4つ足動物全般の歩き方、【トロット歩行
】っていうフォームになっちゃいます。―玉腰くんたちがやっているのは?
T 【ギャロップ走行
】です。4つ足動物が全力で走るとき、獲物とかを追うときの走り方ですね。
―4つ足動物の走り方を参考にしたり。
T そうですね。人間ではいとうさんのフォームを、他にはチーターやお猿さんの走り方とかを見ながら…自分が走ってる動画と見比べたり。
―YouTubeとかで?
T はい。「チーター スロー」とかで検索して(笑)
―動物によって走り方も変わってくるのですか?
T チーターでも猿でもまず骨格が違うんで、その分走り方も変わってきます。動物の数だけ走り方がありますね。
―なるほど。イチオシの動物は?
T チーターですかね。あと、いとうさんも好きなパタスモンキー
は手足がすごく長いので、ストライドも広くて格好いいですね。
―それだけ足も速い。
T そうですね。お猿さんの中でも最速と言われるぐらいの。パタスモンキーの全速力は時速55キロと言われています。普通のお猿さんがだいたい時速40キロぐらいなのでかなり速い。
―NHKで放映された『きわめびと
』では、実際にパタスモンキーを見て周る玉腰くんの姿が観られました。T はい。去年の5月くらいに、いとうさんと未来也
くんと自分でモンキーセンター に行って。最初は3人でプライベートで行くつもりだったんですけど、聞き付けた取材の方が同行することになって。取材を受けながら、お猿さんを見て周ることになりました。
―モンキーセンターでは何を?
T お猿さんたちをジーッと見たり、あと、モンキーセンターの従業員で骨格の研究をされている方がいて。いとうさんなんかは、その人に走りのフォームを見せてアドバイスをしてもらっていました。
―あくまでも参考として。
T はい。あと、ニホンザル
とかを集団で飼っている場所があったんですけど、そこは楽しかったですね。「あいつ速いな」とか、「ああ、こいつがボス猿なんだ」とか。
―4足走行を始める前から動物に興味は…
T ありましたね。とくにワンちゃんとお猿さんが好きで。
―動物になってみたいなと思ったことも?
T それは最近ですね。理想としては、ワンちゃんのなかで1番速いグレイハウンド
という犬になってみたい。なったらどんな感じなのか、どれぐらい速いのかとか。いま人間の骨格で走ってても楽しいので、実際4足走行に適した骨格の動物になって走ったら、どれだけ楽しいんだろうとは思います。
―速いものは格好いい?
T そうですね、桁違いに。
―しかし、玉腰くんの進化の「速さ」も尋常ではないですよね。50mで13、14秒ぐらいだったのが、今では100mで…
T 15秒86ですね。
―4足走行を始めて3年間、なぜこんなにも速くなれたのでしょう?
T うーん。いとうさんの走りや動物の走りを見て、自分のフォームを修正したり。あと、走り込みや筋トレも続けていたので、その成果ですかね。
―練習のパターンなどは?
T そうですね。陸上部のトレーニングもあったので、その日の身体の調子にもよりますが、だいたいはストレッチと歩行から入ります。4足歩行から…
―確かめるように。
T それから軽く4足で走って。20mを往復したり、筋トレを混ぜて走ったり。時間はきっちり1時間で、そこから縄跳びだったり、また筋トレをすることもあります。
―筋トレというのは?
T まず、4足走行だと前足と後ろ足の使い方が重要なので、その2点に特化した筋トレになります。例えば、普通の腕立て伏せだと両腕を広げてやると思いますが、自分の場合は肩幅に狭めて下に下ろす。そうすると、胸ではなくて前足の肩に筋肉がつきます。
―後ろ足は?
T 後ろ足はスクワットとか。お尻からハムストリングまでをよく使うので、そこを重点的に鍛えたり、縄跳びでふくらはぎを鍛えたりしていますね。
―トレーニング後の疲れも2足の時とは違うのでしょうか?
T かなり違いますね。2足は走っていたら体よりも心臓がバクバクしてくるんですが、4足はまず筋肉から疲れていって、その後に心臓という感じですね。
―玉腰くんがトレーニングをしている間、友だちや兄妹たちは?
T いや、普段の練習の時は基本的に1人です。タイムを計る時だけ誰かに手伝ってもらって。
―ストイックというか…孤独は感じませんか?
T 毎日寂しいです。あと、夜とかだと公園も暗いので。
―他のインタビューでは「練習場所の確保」に相当困ったとも話していました。
T それは今もですね。公園にカップルとかいるとすごい見られて。「何してるんだろう」みたいな。そんな時は恥ずかしくて、早く練習やめようってなったり。
―なるほど。「確保」というより「選択」の問題が。
T そうですね。今も練習はなるべく人が通らないところでしてます。競技場で練習するのが1番いいんでしょうけど、毎日毎日通うのがキツイので。
―しかし、その不断の努力が後にギネスレコード
という結果に繋がった。
T いとうさんを超えたいという目標があったので。
―なるほど。憧れであると同時にライバルというか…
T うーん。ライバルとはちょっと違う気がします。大会の当日はそうかもしれませんが、4足走行では大先輩ですし。というか、4足走行を発明して競技化したのも、いとうさんなので。やっぱり憧れですね。
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