anomura

すてきな声に、会いにいこう
Illustrated by © 2017 タジマ粒子 / TAJIMA PARTICLE
Introduction
4足になる。地面に左右の手をついて。その手を足に見立てて、しばらく歩いてみる。 4足で走る。身軽な猿のように。右の後足から左の後足、そして左の前足から右の前足と4つの足を順に動かしたとき、走者は(瞬間)空を舞う。 「疾走感が2足の時とは全く違いました」 話し手による最初の感覚。ことばは実感に置き去られてはいないだろうか。 これはひとりの青年の声である。謙虚で物静かな細身の好青年。 そんな彼が「世界最速の4足ランナー」になるまでの声を、まだ見ぬ歩行者/走者に届けたい。 2足のその先へ。BGMはきっとKashiwa Daisuke「rabbit’s_quartet」のような軽やかな音が似合うだろう。
Interviewee profile
玉腰活未

名古屋市生まれ、名古屋市育ち。2014年11月13日に駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で行われた4足走行の世界大会においてギネス世界記録(15秒86)で優勝。「世界最速の現役高校生」として脚光を浴びる。現在は「動物に関わる」という夢のため名古屋市内の動物専門学校に通う。好きな動物は犬とサル。
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はじめてのギネスレコード

―「いとうさんを超えたい」という目標をはっきりと持ったのは、いつ頃ですか?
T 2013年の大会が終わった後ですね。思ったよりも、いとうさんと実力が近かったので。「あ、これならもっと練習すればいけるんじゃないか」って。
―高校2年生の頃ですか。大会に出たのは、その時が初めて?
T そうですね。というか、大会自体が1回目だったので、全員が初参加ですね。
―なるほど。1回目の大会(※1)での結果は?
ギネスレコード時の表彰状

ギネスレコード時の表彰状

(※1)

2013年11月14日に駒沢陸上競技場で開催された4足走行の世界大会。1位はいとうけんいち(16.87秒)、2位が河原未来也(17.05秒)、3位に玉腰活末(18.04秒)

T 3位でした。
―そして翌年の、2回目の大会でギネスレコード(1位)ですか。急成長の裏側で、例えば競技や大会の規定に悩まされたことなどは?
T 色々あります。例えば、1回目の大会が終わっていとうさんに近付けたので、次の大会までは全力で自分独自の走り方を見つけようと考えました。それまではずっと、いとうさんを真似て【ギャロップ走行】で走っていたんですけど、アレコレと考えて【後ろ足走行】に変えました。で、練習してたら15秒03っていうタイムが出て。
―これはイケる、と。
T でも、大会の3週間前になって申請したら、ギネス記録側からフォームの指導が入りまして。それまで自分が1年間練習してきたフォーム【後ろ足走行】がダメですって言われちゃって。
―申請というのは動画かなにかで録って送るんでしょうか?「こんなフォームで走ってます」って。
T いえ、申請自体は自分の名前とか走り方とかを記入するだけですね。
―申請して許可が下りて…記録の計測は?
T 大会の当日に、本番中に計測ですね。
―なるほど。しかし【後ろ足走行】はなんでダメだったんでしょう。
T それも色々と複雑なんですけど、ギネス側だけじゃなくて、いとうさんにもお願いされて。
―フォームの変更を?
T はい。【後ろ足走行】は速度は出るんですけど、身体を痛めやすいみたいで。いとうさんからは「もしその走り方で1位を獲っちゃったら、そのフォームを真似て身体を痛めるひとが出てくるかもしれない。それは避けたいので、【ギャロップ走行】に戻してもらえませんか?」というようなことをお願いされました。
―4足走行界というか、競技の普及を考えて。
T そうですね。
―いとうさんは、その身体を痛めない走り方で?
T はい。ずっと【ギャロップ走行】です。
―しかし、3週間前にフォームの改善を余儀なくされるというのは…
T 「えっ!」って思いました。自分は何を練習してきたんだろうって(笑)
―大会当日、東京には朝に?
T そうですね。朝に出て、東京をぐるっと見て、昼過ぎぐらいに競技場に着きました。
―ぐるっと回って?
T 渋谷とか、色々なところに行きました。
―観光ついでに…
T いや、姉と一緒に行って。姉は服を見に行って、自分はウォーミングアップをしていました。
―渋谷の公園で?
T そうですね。
―大会は何時からだったのでしょう?
T 14時に開場、15時から予選、16時に決勝みたいな。自分はシードだったので、決勝からでしたが。
―予選は見ましたか?
T はい。だいたい20人ぐらいがエントリーしていましたね。
―玉腰くんの他にも高校生は?
T いましたね。いちばん下で中学1年生ぐらいの子もいました。広島から来た子で。決勝にはギリギリ残れなかったんですけど。
―そして、予選を経て決勝が始まったと。試合前の手応えは?
T 正直、自信は無かったです。フォームの変更があって、3週間しか【ギャロップ走行】の練習ができなかったので。まあ3週間にしては悪くないところまでは仕上げましたが。
―コンディションはどうだったのでしょう?
T 普通ですね。でも、前日の部活の時に我慢できずに懸垂をやってしまって…ちょっと無駄な筋肉を使っちゃったかな、と。
―「我慢できず」に(笑)決勝の記憶(※2)は?
T あまり覚えていませんね。走り切って、しばらく経ったらブワーって取材の人たちが来て。「好きな動物は?」とか…
―その時の答えは?
T たしか「お猿さんとワンちゃんです」と。
―そこはブレずに。ギネスレコードを更新して、今後の目標などは?
T 目標はとりあえず100mを4足で12秒台ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=t2X4EUB1we4
決勝の動画
―12秒台?
T 最終的な目標は、4足で自分の2足を超えるという。2足のベストタイムが「12秒77」なので。過去に計ったタイムなので今はもう少し速いかもしれませんが。
―2足のタイムは留めたい。
T そうですね。あまり速くなると4足で超えられなくなるので。
―しかし、かなりの難易度ですよね。超えるというのは【ギャロップ走行】で?
T そうですね。最後には【後ろ足走行】も考えてますが、できるだけ【ギャロップ走行】で。
―記録更新者としてルールの変更を望んだりはしますか? 競技に限って【後ろ足走行】もアリとか。
T それだと、運営の方針や大会の場所も自分が考えなきゃいけないんで。
―今は、全ていとうさんが?
T はい。ルールを決めて、駒沢オリンピック競技場(※3)を予約して…
(※3)駒沢オリンピック競技場
東京都世田谷区駒沢公園の駒沢オリンピック公園総合運動場内にある陸上競技場。プロ野球・東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)のフランチャイズとして1953年に建設された駒澤野球場を解体整地して、1964年の東京オリンピックの開催のため誕生。
―すごいですね。
T 4足を極める、そして広める。やっぱりすごいなと思います。
―「ライバルではなく、憧れの人」という先の言葉にも繋がる背景ですね。
T 練習しながら、取材を受けて収録もこなして。
―いずれは玉腰くんも、いとうさんのような存在に…
T いや、なれないと思います(笑)
―いとうさん以外で憧れの人はいますか?4足走行の世界に限らず。
T やっぱり武井壮さんはすごいと思います。陸上界のトップアスリートとして。
―武井さんにもなってみたい、と?
T そうですね(笑)
(※4)武井壮
日本のタレント、スポーツトレーナー、元陸上競技選手であり、陸上競技・十種競技元日本チャンピオン。タレント活動のかたわら、陸上競技のマスターズ大会にも随時出場。2013年には、ブラジルの世界マスターズ陸上競技選手権大会の男子200m決勝において、22.64秒というタイムで銅メダルを獲得。2015年にフランスのリヨンで開催された第21回世界マスターズ陸上競技選手権では、M40クラスの4×100メートルリレーに日本代表のアンカーとして出場し、42秒70のタイムで優勝。
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Place info:
駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場
東京都の世田谷区にある競技場。1964年、東京オリンピックの開催のために開場。スタンド内部には有料の駒沢トレーニングルームが併設されており、一般利用客に開放されている。最寄駅は東急の駒沢大学駅。
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