Introduction

花から花へ、蜜を集める蜜蜂のように。
あれも、これもと、棚から棚へ手が伸びる。
1冊抜き取って、ページをめくり、戻し、また抜き取り……。
目の前に広がる魅惑的な本の海。その1冊1冊に綴じられた世界に溺れる。
ソビエトの絵本、昭和の幻想文学、フランス映画のポスター、妖怪漫画……。

古本屋、それは人から人へ渡り歩いてきた本が漂着する場所。

今回読むのは、そこに魅せられた一人の男の物語。
永遠に広がり続ける本の海を泳ぐ男の、現在進行形の物語。

Interviewee profile
金本武志

1980年、大阪市浪速区日本橋生まれ。日本橋育ち。日本橋在住。
2008年、日本橋に音楽・映画・美術・絵本・サブカルチャー・文芸等のジャンルの本に加え、CD/レコードも取り扱う古本屋、アオツキ書房をオープン。
2014年に西区北堀江に移転。
鳴カズ飛バズのまま今にいたる。
この先どうしていいかわからない。

秘密基地

―お店をやっていて楽しいと感じるのはどういう時ですか?
K やっぱり売上がいい日ですよね、現実的な話ですけど。それ以外で言うと、正直どれだけ好きなジャンルでも、自分が知ってる範囲のことってちょっとなんですよね。
買い取りで自分の範囲外のもんが入ってくると、「ああこういう本があるのか」とか「こういう世界があるのか」とかちょっとずつ知ってるものが広がっていくんですけど、それでもまだ全然足らないですね。多分永遠にその範囲の外がある感じです。それがまあ面白いなと思いますね。それは音楽でもそうです。
あとは、自分のとこでやってもらっていいライブだったりすると、やってて良かったなと思いますね。
―今まで続けてこられたのはどうしてだと思いますか?
K ポジティブな面で言うとお客さんや色んな人にお世話になったからなんですけど、ネガティブな面で言えば、じゃあここを辞めて自分は何をするのかとも思うし、ほかに何かやりたいことって、どうなのかなって思うし……。
だから続けてこられたのは……諦めの悪さじゃないですかね(笑)お客さんもまあ来ないですけど、一部の買いに来てくれる人に支えられてますね。「辞めよかな」とはもうしょっちゅう思ってるんですけど。
でも人に店を褒めてもらったりすると、やっぱり続けたいなと。辞めてしまうと社会との接点がなくなりますし……。ほかの事で自分はやっていけるっていうバイタリティーがある人は全然大丈夫やと思うんですけど。まあ、ないですからね(笑)
だから、続けてこれたとも言えるし、辞めることができなかったとも言えますね。1年後もどうなってるかわからないですし、日々どうしようかなと思いながらずるずるとやってます。
―開店から今までで変わったことはありますか?
K ライブやるようになったり、CD置くようになったり。自分が音楽が好きっていうのもあって音楽本を豊富にしたいなっていうのがあるんですけど、それ以外の本も結構増えてきたし。新刊の本も何冊かは扱うようになったり。でももっと色々と変えないといけないところはあると思いますね。
―どういうところですか?
K ちゃんとネット販売するとか。店を維持する為にもっと付き合いを良くして友達増やすとか(笑)そういう営業活動的な事をしないといけないような気がしますね。でもまあできないですよね(笑)
―そうなんですか?(笑)
K 店に知り合いが来ることってほぼ皆無なんですよね。ほんまの店とお客さんっていう関係の人しか来ない。
あと、僕自身がお客さんに頻繁に話し掛けたりしないんですよ。多分愛想全然良くないと思います。ただ、自分が学生時代に古本屋とかレコード屋に行ってて、お店の人と知り合いになりたいとか友達になりたいとか一切思わなくって、むしろ絶対なりたくないって思うんですよ。店員さんが嫌いとかでは全くなくて、そこで付き合いが生まれちゃうとそれまで気兼ねなく行ってたのとは違うものができるなと思って。自分は見てる側でいたいし、伏し目がちに行って用事が終わったらすぐ帰る、みたいな(笑)
―関係者になりたくないというのはわかる気がします。
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K だから自分も店をやってて何か訊かれたら答えますけど、基本そっとしとくというか。それで行きにくいなって思って来なくなるお客さんもたくさんいてると思うんですけど、その代わり愛想のいい店に居心地を悪く感じる人が割と来てくれてるような気がするんですよね。定期的に来てくれる人なんか、僕と一切会話しないし、さっと見てさっと買って、会話もなくさっと帰っていく人が多い。
―買った本について話すということもないんですね。
K 僕はそういう店があってもいいんじゃないかなってちょっと思うんですよね。まあ昔のレコード屋とか古本屋ってだいたいそんなもんでしたからね。お洒落なお店で友達同士が集まるようなとこは僕自身がちょっと苦手なんもあるから、なるべくお客さんはほったらかして。ぶすっとしてるつもりはないんですけど、過剰に愛想良くしなくていいんじゃないかなと思ってます。
―常連さんはおられるんですか?
K いてはるんですけど、名前も知らんし、顔知ってるぐらいの感じ(笑)ちょこちょこっと喋ることはあっても何してはる人かも知らんし、プライベートな話はしたことない人がほとんどですね。
そういうお客さんは、たまに知り合いが来てくれて僕が喋ってたりすると、「あ、この人喋れんねんな」って思うかもしれないですね(笑)
―今後の展望はありますか?
K 売上が上がってくれるに越したことはないですけど……。もっと広げていきたいみたいなことはなくて、かと言ってこじんまりやっていきたいっていうのとも違って。
品揃えはもっと良くしたいです。あとは自分の気持ちの面で、多分変えていかないと店が成り立たないところがあるのはわかってるんですけど、今のスタンスを崩さないようにはしたいかなと。そのスタンスが具体的に何かっていうとわかんないですけど。
1人で店をやってるからやれることって限られてるし、すごい辛かったりするんですけど、色んな人の協力のもと皆でやるみたいな、それは全く否定はしないんですけど、でも自分は一緒にやってくれる人がもしおったとしても、1人でやりたいなあと思ってしまいそうなんですよね。それがダメな点でもあるけど、自分が居続けられる空間にはずっとしときたいなあって。秘密基地的な感じの。
広げたいとか有名になりたいとかはなくて、むしろ積極的に知られたくない、っていうと語弊がありますけど。そういう気持ちと、売上がないことには店を維持できないっていうことの間があって、ずっとこんな感じでやってます。なかなかぼんやりとしか言いようがないですけどね。
―なるほど。客の一人としても、アオツキ書房さんには変わらずにあり続けていただけたら嬉しいです。今日は色々とお話を聴かせて下さってありがとうございました。
K ありがとうございました。
2016.03.29 アオツキ書房にて
conclusion

落ち着いた照明に、優しい音楽の流れる店内。
静かな町に佇むアオツキ書房は、そこだけ別の時間が流れているようだ。
 
綺麗なもの、グロテスクなもの。刺激的なもの、退屈なもの。懐かしいもの、未だ見ぬもの。多くの人に読まれたもの、ほとんど知られていないもの。
 
過去から生き延びた様々な本は、アオツキ書房という方舟に乗り、店主と共に今日も漂い続ける。