place
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日本 • 東京都 • 渋谷区
illustrated by © タジマ粒子

Introduction

ライブハウスは、生々しい音楽を楽しむ場だ。同時に、日常を離れたとてもロマンチックな空間だ。中でもWWWには特別な魔法がかかっている。とびきり中毒性の高いやつが。その魔法の謎を探るべく、今回、照明の大西さんにインタビューをお願いした。WWWの専属照明であり、奇妙礼太郎、シャムキャッツ、D.A.N.といった、数多くのアーティストの照明も担当している。これまでライブといえば音にだけ夢中になっていた自分が、大西さんの照明に出会って、初めて光に魅了された。今夜もまた、輝くミラーボールの下で、そんな出会いが生まれるのかもしれない。

Interviewee profile
大西郁子

1978年奈良県出身。大阪芸術大学付属短期大学卒業後、2000年株式会社共立に就職。2012年スペースシャワーネットワーク入社。ライブハウスWWW専属照明だけでなく、奇妙礼太郎、シャムキャッツ、D.A.N.、Yogee New Waves、Predawnなど、数多くのアーティストを担当。

WWWと外仕事

―WWWに入る前はどこで働かれていたんですか?
大西さん(以下、O) 共立(※1)というところで13年間働きました。大きい現場も多かったし、ツアーで地方を回って全国に行ったりすることがほとんどで、一か月に一週間ぐらいしか家にいなかったですね。
オレンジレンジのピンスポット(※2)・オペレーターを10年間ぐらいやってて。彼らは一年中ほとんどツアーだったので。
―そこから、どういう経緯でWWWに?
O WWWは共立としてちょこちょこ入ってて、AKRON/FAMILY(※3)をやった時に、それを観て気に入ってくれたみたいで。そこからオールナイト系のイベントとか、WWW主催の公演で呼ばれることがすごく多くなりました。わりとベテランの照明さんが多かったから、その時に入ってくる中ではわたしがフレッシュな方だったんですよね。それでハマったみたい。
それで、このまま照明を続けるか悩んでた時期に、ちょうど部署異動の話があって。考えた末に辞めることにしたんですけど。そのあとWWWのプロデューサーに拾ってもらって、結局は続けてます。
WWW専属照明・大西郁子さん

WWW専属照明・大西郁子さん

―WWWに入って、それまでの仕事とのギャップはありましたか?
O それまではホール、アリーナ、スタジアム規模でやってましたからね。
―照明の数も全然違いますよね。
O 数も違うし、大きいところはまず照明がないですからね。ただ吊ってあるだけ。朝来て自分たちで全部付けますから。5、6人で行って自分たちのやりたいように仕込むんです。ライブハウスとは全然違いますね。
WWWステージ

WWWステージ

―WWWはとくに天井が高いですよね。やりにくさはありますか?
O アーティストの頭と天井のレベルが空きすぎてて、そこの空間を埋めるのが難しいです。ムービング(※4)っていう模様が出たりするLEDの機材とか、賑やかすものがあればもちますけど。
でも天井が高いっていう理由で選んでくれるアーティストもいます。
―空間がある分、照明の雰囲気も出るのかなと。
O 見栄えはいいですよね。光の線がちゃんと見えて。せせこましさも感じないし。
―WWWでやっていて楽しいことや嬉しいことはありますか。
O WWW主催となると気持ちが入るのは当たり前なんですけど、主催以外のイベントの時に、割と距離を感じるアーティストでも、ちゃんと「WWWに戻って来れて嬉しい」みたいに言ってくれることがあって。それはこっちも嬉しいなぁって。成長というか、どんどん大きくなっていくのを見られるのもすごく嬉しいです。
あと、ここ(WWW)の人たちは、すごくラク。好きにさせてくれるんです。ライブハウスの照明の人なんて、本来はもっと他の、掃除とか客出し(※5)とか手伝ったりするものですけど、ここはちゃんと照明に集中させてくれます。
―苦労する面もありますか?
O オペレートが連日続くと、かなりキツいです。もちろんオーダーしてくれる人たちは、その日のライブをいいものにしたい、成功させたいから、要望もくれるわけですけど。それが毎日毎日になると… オーダーがキツいんじゃなくて、一本の本番でかなり集中するから、精神的にキツいんです。
―ワンマンになれば一曲一曲の要望もあるわけで。
O そうですね。聴く曲がとてつもない量になるし。あと自分のこだわりで、明るさのゲージ(※6)を気にしてて。ちょっとしたレベルの違いで、すごくライブの見た目も変わってくるので。
(※1)共立
株式会社共立。昭和34年設立。イベント、コンサート、テレビ番組、映像制作、施設運営などの総合制作を手掛ける。
(※2)ピンスポット
人力で操作する灯体。バーを操作しながら大きさや明るさを調節し、対象をフォロー(追いかける)することができる。
(※3)AKRON/FAMILY
2002年にニューヨーク・ブルックリンで結成されたロックバンド。2005年にアルバム『Akron/Family』でデビュー。
(※4)ムービング
プログラミングによって自動で動く灯体。無数に種類がある。動きの他にカラーやゴボ(模様)もプログラミングできる。
(※5)客出し
客を退場させること。
(※6)ゲージ
明度のこと。「ゲージを上げて」=もっと明るくしてという意味。
―そのレベルはアーティストや人数で変えるんですか?
O 曲の雰囲気かな。ちょっとしたことで調整してます。例えばこの曲は黄色を付けようっていう漠然としたイメージがあるけど、付けるとしても100%で付けるのか、50%、25%っていうのでも大分雰囲気が変わってくるから、それを一つ一つ考えるので。イメージといっても莫大で。
青でもダークブルー、ミッドブルー、ライトブルーとかいろんな種類があるから、まずは色を選出する作業から入って。
―アーティストからも照明のことを相談されますか?
O それはあんまりないですね。自分が担当してるアーティストとは話すけど、イベントで頼まれた照明の時はほとんどないです。

アーティスト:D.A.N.

アーティスト:D.A.N.

―D.A.N.(※7)は、どういう経緯で照明を担当することになったんですか?
O D.A.N.は、初めて彼らがWWWに出演した時、回線表(※8)がサッカーのフィールドみたいに描かれてたんですよ。そこでサッカー好きのわたしにはグッときてしまって。
―遊び心があって素敵ですね。
O さらにリハで初めて音を聴いた時に「この子たち、めっちゃかっこいいやん!」と完全に心を掴まれました。そこからメンバーとすぐに意気投合して、D.A.N.チームに入会して、いろんな所でD.A.N.の照明をすることになって。
先日フジ(※9)のレッドマーキー(※10)で5000人のお客さんがD.A.N.の世界に包まれた瞬間、本当に照明をやってて、彼らに出会えて良かったなと実感できましたね。
―そういうスタッフさんの気持ちがアーティストを支えてるんですね。
O 信頼関係で言えば、シャムキャッツ(※11)も。実は最初に外現場で「やってほしい」って言ってくれたのが夏目くん(シャムキャッツのボーカル&ギター)で。彼らは本当にわたしの明かりを信用してくれてるんですよ。
この前リキッド(※12)でやった彼らの自主企画の時も、本番前の転換(*13)の30分だけで十何曲分の明かりを作らないといけないっていう状況で。ちょっと無理だなと思って、メンバーに頭の7、8曲はもう明かりを変えないで、ちょっと暗めの、スタジオライブ(※14)っぽい雰囲気でやりたいって相談したんです。だから「前半になるべくオルタナ(※15)系の曲を選出してほしい」って言ったら「わかった」って言ってくれて。
―すごいですね。
O このやり方って照明的にはすごい冒険でしたけど、結果的にメリハリがついてよかったです。本編の最後とアンコールの最後はドカンといきたかったから、流れがつくれて。
でもやっぱりセットリストまで変えてくれるってなかなか出来ることじゃないですよね。そういう挑戦をさせてくれるから、毎回楽しくオペさせてもらってます。
―外仕事の楽しさというのはどういうところですか?
O 一からやる大変さはあるけど、ツアーに来た感があります。昔を思い出すというか。あとはそのライブハウスにあるスポット(※16)とか機材をどう使ってやろうかな、とか考えるのは楽しいですね。
―WWWと外での仕事の両立は難しいですか?
O WWWで重要な仕事とか、主催イベントがある場合はできないですからね。代わりに知り合いの照明さんに頼むとなっても、お仕事をくれる人の気持ちも汲まないとダメだから。誘っていただいても出来ないのはツラいですよね。
(※7)D.A.N.
2014年に東京で結成された3人組バンド。2015年1st e.p.「EP」でデビュー。
(※8) 回線表
ライブなどのステージ用に事前に作成されるプラン表。アーティストが使用する楽器や機材の配置などを記載する。
(※9)フジ
フジロックフェスティバル。日本最大規模の野外音楽イベント。毎年夏に新潟県で開催される。
(※10)レッドマーキー
フジロックフェスティバルのステージのひとつ。約5,000人を収容できる唯一の屋内ステージ。
(※11) シャムキャッツ
東京のロックバンド。2009年1stアルバム『はしけ』でデビュー。
(※12)リキッド
LIQUIDROOM。東京・恵比寿にあるライブハウス。
(※13)転換
舞台(セット)を変えること。
(※14)スタジオライブ
ホールやライブハウスではなくスタジオで行うライブ。
ここでは音楽ジャンルであるオルタナティヴ・ロックのこと。
(※16)スポット
灯体全般のこと。