place
寒冷な土地と杜氏の手が造る美酒。久壽玉の【平瀬酒造店】
日本 • 岐阜県 • 高山市

Introduction

北アルプスの清水と豊富な米、そして寒冷な気候。
飛騨高山は江戸時代から酒造りが盛んな土地だった。
今も残る、通りに大きく間口を広げた7軒の造り酒屋。
中でも最も古い【平瀬酒造店】の酒蔵を少し覗かせてもらった。

北アルプスの清水と豊富な米、そして寒冷な気候。
飛騨高山は江戸時代から酒造りが盛んな土地だった。
今も残る、通りに大きく間口を広げた7軒の造り酒屋。
中でも最も古い【平瀬酒造店】の酒蔵を少し覗かせてもらった。
高山陣屋前に架かる中橋。

高山陣屋前に架かる中橋。

簡素な店内

高山駅からまっすぐ歩いていると、たくさんの町屋が残る伝統的建造物群保存地区、通称〈古い町並〉に差し掛かる。通りには観光客が溢れ、食べ歩きや土産物の商店が並んでいる。
かつて城下町として栄えた飛騨高山。町屋建築が多く残るこの町は、日本有数の観光地になっている。江戸時代から続く造り酒屋には、バーを併設しているところもある。地酒を使ったスイーツは、日本酒が苦手な人にも親しみやすそう。
そんな観光客で賑わう〈古い町並〉から少し離れた通りにあるのが【平瀬酒造店】だ。
軒先に大きな杉玉と「久壽玉 正宗」の看板が掲げられた母屋は、厳格な佇まい。カラカラとガラス戸を開けると、ズラッと並んだ酒瓶が出迎えてくれる。その種類の多さはもちろんのこと、最小限の物しか置かれていない店内の簡素さにも驚かされる。〈古い町並〉で見かけた酒蔵が観光客向けに改装・サービスをしているのに対して、とても落ち着いている。
しかし、そこに却って酒造りへのこだわりが窺えるような気がして、期待も膨らむ。

酒蔵見学

予報では最高気温20℃になるということだったが、早朝は山に薄く霧がかかって肌寒く、午前10時の店内では薪ストーブが焚かれていた。
母屋の奥で酒造りが行われており、扉を開けると冷気と共に酒の香りがほんのり漂ってくる。屋外よりかなり寒く感じた。中はさらにいくつかの建屋に分かれており、昭和、平成と増築を重ねたものだそうだ。酒造りの工程を丁寧に説明してもらい、途中で米麹を実際に食べさせてもらった。噛むと少しポリポリした食感だが甘味がある。蒸した酒米に麹菌を混ぜて発酵させることで、アルコール発酵に必要な糖が生成されるそうだ。
そして貯蔵熟成の段階で案内されたのが、江戸時代から残る蔵だった。分厚い扉の中には大きなタンクがいくつも並び、ちょうど最後のろ過を行っているところだった。少しだけタンクの中を覗かせてもらうと、出来立ての酒はやや黄味を帯びており、ふわっと華やかな香りがした。
大正元年の地域火災で蔵だけが残った。現在の店舗は火災後に建てられたもの。

大正元年の地域火災で蔵だけが残った。現在の店舗は火災後に建てられたもの。

守り続ける家訓

平瀬酒造店は、菩提寺の過去帳に初代の名が記された元和9年(1623年)から数えて、現在15代続く老舗の酒造店だ。
『他の商売には如何なることがあっても振り向かない。酒造り業一筋に生きる。』
この家訓は今も固く守られているそう。店内の簡素さも、それ故なのかもしれない。
平瀬酒造店では、製法品質基準を遵守している。製造している酒は全て吟醸酒・純米酒・本醸造に分類される。これは品質へのこだわりであり、自信と戒めであるようにも感じた。
見学後に3種類を冷酒で試飲させていただいた。ほとんど同じ原材料、同じ土地、同じ蔵で作られたそれらは、口に含んだ時の香味から最後に鼻に抜ける香りまで全てが違う。見学の後だからこそ、わずかな製造過程の違いが酒の出来栄えを変えることや、それを可能にする杜氏の腕に驚かされた。
【平瀬酒造店】は全体的にやや辛口傾向のラインナップ。日本酒党もそうでない方も、『酒造り業一筋』の味を是非一度ご賞味あれ!
毎年冬に開催される「酒蔵めぐり」では、6つの造り酒屋が交代で酒蔵を公開する。普段の見学は要予約。

毎年冬に開催される「酒蔵めぐり」では、6つの造り酒屋が交代で酒蔵を公開する。普段の見学は要予約。