Introduction

大須商店街の東仁門通ゾーンに水色の看板が見える。お店の名前は【The Other】
1994年3月5日に「60〜70年代のファッション、音楽、サブカルチャーのトータルショップ」として始まった当店のこだわりとは。
色や声そして写真を交えながら、その表層に迫ってみたい。

大須商店街の東仁門通ゾーンに水色の看板が見える。お店の名前は【The Other】
1994年3月5日に「60〜70年代のファッション、音楽、サブカルチャーのトータルショップ」として始まった当店のこだわりとは。
色や声そして写真を交えながら、その表層に迫ってみたい。

色々な色

近江源太郎が編んだ『色々な色』の中に、こんな一節がある。
幾何学柄のワンピース、プリーツの入ったベル・スリーブ・ブラウス、花の刺繍をあしらった別珍ショート・ベスト、フロント・ボタンとファスナー・ワンピースは「60年代」のフランス製

幾何学柄のワンピース、プリーツの入ったベル・スリーブ・ブラウス、花の刺繍をあしらった別珍ショート・ベスト、フロント・ボタンとファスナー・ワンピースは「60年代」のフランス製

ことばと、そのことばが指示している物や事との関係を、「地図と現地」の関係にたとえることがあります。「リンゴ」と聞けば、私たちはあの果物を想い起こします。けれども、「リンゴ」ということばは、赤くて丸いそして甘酸っぱいあの果実そのものでは決してありません。

同じことは「ことばと色」の関係についても言える、そう編者は続けている。たとえば「赤」という色名は「あの色そのものではありませんし、明暗濃淡さまざまな赤をさして使われています」と。
つまり「丹」、「朱」、「緋」、「紅」とどれだけ「赤」を名付けていっても、「ことば」は最後まで「色そのもの」に成り代わることはできないというわけだ。
(地域や民族によって虹の色数は変わってくるといった逸話とも重なって)
では、どうすればよいのか。今回、訪れたのはそんな袋小路に開いた風穴のような場所だった。

水色のリンゴ

大須商店街の東仁門通ゾーン。巨大な招き猫の近くに、ひときわ鮮やかな水色が見える。
お店の看板

お店の看板

大須を拠点としてから22年目の春。今でこそ「1960~70年代のファッションを扱うセレクトショップ」として全国に名を馳せる当店だが、その道のりは決して平坦なものではなかったという。

最初は商店街の中でもヨソモノ扱いで。というのも特異なお店でしたから。お年寄り向けの古着屋さんとかリサイクルショップが並ぶ中にポツンとひとつ「変わった人たちのたまり場ができた」みたいな。壁も真っ赤だったり、サイケ柄だったり。長くやって、やっと信用を得られたというか。(the other:杉岡さん)

セレクトショップの開店から、音楽レーベル【the other records】の創設、そしてライブ/DJイベント【アングラ・ポップ】の主催など、22年間の軌跡をことばで辿ることは難しい。
ただ、話を聴いているうちに成功の秘訣は「60~70年代への愛とこだわり」にあったのではないかと感じ始めた。

キレイな古着

たとえば 、ヴィンテージ古着の扱いひとつにしても【the other】のそれは明らかに他と一線を画している。
ヴィンテージの帽子やスカーフ、パンプス、ブーツ等

ヴィンテージの帽子やスカーフ、パンプス、ブーツ等

うちの場合は古着でも洗えるものは全てクリーニングしてから店頭に並べるようにしています。洗濯をしてアイロンをかけたり、傷があったら縫ったり直したり。バックひとつにしても裏側も含めて全部磨いて、革クリームを塗ってみたいな。週に2日お店を閉めるショップって珍しいかもしれないけど、手間はかかってもキレイな状態で店頭に出したいというのがあって。「これが古着なの?」と驚いてくれるお客さんの声が活力ですね。(the other:鈴木さん)

ワニ皮のハンドバッグ、ツイードのベレー帽、フラノ素材のワンピース。他にも店頭に並べられたひとつひとつのアイテムが精微なチェックを通過した後のものであるということを繰り返しておこう。
また、そのこだわりは仕入れの段階からしてすでに現れている。カウンターカルチャーの聖地、イーストヴィレッジや新宿の「60~70年代」に魅せられた青年時代。憧れはそのままに、モードの受け手から送り手になったあとも「現地」には必ず足を運び続けてきた、と杉岡/鈴木さんは語る。

「地図」を捨てて、ファッションの「現地」へ。時にはアメリカ、時にはイギリス、そして日本の各地を飛び回る。そうした買い付けの旅は今もなお続いているそうだ。
花柄のチューリップ・ハットとガウチョパンツは「70年代」デッドストック生地を使ったオリジナル商品

花柄のチューリップ・ハットとガウチョパンツは「70年代」デッドストック生地を使ったオリジナル商品

ワイルド・サイドを行け

「オーセンティック・ロック=60~70年代のロックとブルースを基調にしながらも新しさを感じさせるサウンド」
2016年現在 、同ジャンルの旗手として日本の音楽シーンを疾走するGLIM SPANKY。バンドのボーカルであり、【the other】のファンだと公言する松尾レミのことばとともに、最後に当店が辿ったであろう歴史に耳を傾けてみよう。

進んでいこうぜ 今日だって道は分岐点ばかり
好奇心辿って 悪い予感のする方へ
(GLIM SPANKY「ワイルド・サイドを行け」より)

気の触れた仲間とともに、本道とは別の「ワイルド・サイド」を行く。大須という街の片隅で。ネガティヴやアクシデントは「60~70年代」という魔法が和らげてくれたに違いない。なぜなら、書を捨てて町へ出る。RGBの三原色、白と黒以外の色を探し求める。それらはいつだって「サブ」カルチャーに酔わされた者たちの強みであったはずだから。
指し示すことをやめて、媒介に過ぎないのだと気づくこと。ことばを通じて色と色とが混ざったとき、もとの「赤」は「別の赤」へと成り変わる。

ヴィンテージ・アクセサリーやファッション、デザイン、建築などの雑誌も取扱中

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