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日本 • 東京都 • 渋谷区
illustrated by © タジマ粒子

Introduction

ライブハウスは、生々しい音楽を楽しむ場だ。同時に、日常を離れたとてもロマンチックな空間だ。中でもWWWには特別な魔法がかかっている。とびきり中毒性の高いやつが。その魔法の謎を探るべく、今回、照明の大西さんにインタビューをお願いした。WWWの専属照明であり、奇妙礼太郎、シャムキャッツ、D.A.N.といった、数多くのアーティストの照明も担当している。これまでライブといえば音にだけ夢中になっていた自分が、大西さんの照明に出会って、初めて光に魅了された。今夜もまた、輝くミラーボールの下で、そんな出会いが生まれるのかもしれない。

Interviewee profile
大西郁子

1978年奈良県出身。大阪芸術大学付属短期大学卒業後、2000年株式会社共立に就職。2012年スペースシャワーネットワーク入社。ライブハウスWWW専属照明だけでなく、奇妙礼太郎、シャムキャッツ、D.A.N.、Yogee New Waves、Predawnなど、数多くのアーティストを担当。

“日本の色鉛筆”色の照明

―では大西さんの照明について掘り下げたいんですが。とくに中間色(※1)について。
大西さんの照明は赤や青のパキッとした色よりピンクや水色、水色といってもグレーに近いような、ちょっと“灰青色”とか言えそうな日本的な色味が多いイメージなんですが。
O 中間色が日本っぽいっていうのは、実はこれを買って(といって色鉛筆のセットを持ってくる)。“日本の色鉛筆”。これかなり中間色で。あんず色とかつゆ草色とか。外仕事の時も図面にこう、色を塗っていくんだけど、この照明にはこの色を入れようとか考えるときに、この“日本の色鉛筆”色がもうすごいぴったりハマって。自分の照明はこういう色が多いなーって思いました。
―なぜそういう色味を選ばれるんですか?
O わたしが好きというのもあるし、アーティストに合うというのもあります。
―そういう色味はどうやって表現するんですか?
O ムービングでバキッとした色は表現できるから、もし赤、青、黄色、緑を表現するんだったら、LEDで表現して、中間色は一般照明(※2)っていう動かないハロゲン(※3)の色に、カラーフィルターを入れてやってます。その方が温かい色味が出るので。
―LEDでは中間色は出せないんですか?
O カラーミックス(※4)だから出せるけど、あそこまでの温かみを出すっていう表現はできないですね。どっか冷めてる。さっき言ってたグレーに近いブルーとか、ああいうのはLEDで出すけど。何とか感――悲壮感とか虚無感とか、そういうのはLEDで表現できます。冷たいから。
―電球もよく使われてますよね。
O 電球はマリンバ(※5)とかグロッケン(※6)みたいな楽器と相性がいいので、大所帯のバンドのときに使ったりします。
アーティスト:D.A.N.

アーティスト:D.A.N.

(※1)中間色
純度と彩度の高い赤、青、黄、緑といった色に灰色を混ぜた色。落ち着いた柔らかみのある印象の色。
 
【色の参考サイト】
 原色大辞典
 和色大辞典
(※2)一般照明
手動で動かす灯体。ムービングと対義するもの。
(※3)ハロゲン
ハロゲンランプ。通常の白熱電球よりも明るめの電球。
(※4)カラーミックス
CMY(シアン、マジェンタ、イエロー)の3色を混ぜ合わせて色々なカラーを作るシステム。
(※5)マリンバ
木琴の一種。あたたかみのある音色が特徴。
(※6)グロッケン
鉄琴の一種。高い音域が特徴。
電球の光

電球の光

―それこそD.A.N.は電球を使って温かみを出しつつ、冷たくて硬いバキッとした照明でしたね。
O D.A.N.はバキッとした雰囲気が合うので。VJ(※7)もあるから、映像が絡んでくると、どうしても線っていうか、それをハズすためのアイテムですね。もちろん色を入れても表現できるけど、もっとハズしたいんです。
―VJとコラボする場合はどんなところに気を遣いますか?
O D.A.N.の場合はmitchel(※8)が気に掛けてくれていますね。もちろん映像に照明が出ないようにするのは大前提で、合わせてくれる。電球を使うシーンの時は映像なしにしようとか、次の盛り上がるところから映像を出そうとか。
―照明が立つ曲とVJが立つ曲と。
O そうそう。「ここVJがそうやるんだったら、わたしは引くね」とか。映像が明るすぎるところは「マスター(※9)でもいいから抑揚付けて」とか。そういうのは話し合ってやってます。だから別に遠慮とかでなく一緒にやってるって感じです。お互い。
―ステージのイメージはどのように作っていくんですか?
O 曲を聴いたイメージとか、わたしがよくやるのはCDのジャケットとかPVを参考にします。アルバムのレコ発(※10)だったら、そのアルバムのジャケットをメインテーマにしたり。
―アーティストのイメージも大切ですか?
O 最重要です。D.A.N.で言うとワンマンのちょっと前にスタジオライブっぽい映像を上げてて。あれを見たときのイメージも強いかもしれない。囲む照明。フロアライトはほんとに決め手ですよね。シルエット、色味、高さ、置き位置とか、けっこうこだわるかな。
(※7)VJ
ビジュアルジョッキー。コンサート会場のスクリーンに映像を流したり、組み合わせたりする人のこと。
(※8)mitchel
WEBクリエーター / VJ。D.A.N.のVJを担当。
(※9)マスター
ここではマスター・フェーダーのこと。全ての明かりの大元を制御するボリューム機能。
(※10)レコ発
レコードやCDの発売を記念して行われる公演のこと。
(※11)ナマ
カラーフィルターがかかってない、そのままのランプの明かりの事。
アーティスト:D.A.N.

アーティスト:D.A.N.

―大西さん個人として好きな色はありますか?
O 必ず入れるのはライトイエロー、ライトブルー、あと何も入れないナマ(※11)。でも曲を聴いてそのアーティストに合えば何色でも選びますね。これっていうのはないかな。
照明はカラフルなのがすごく好き。あとあんまりやらないけど、潔く真っ赤だけとか。色を使わない感じのほどよい明るさも好きかな。
―機材のこだわりはありますか?
O わりと昔の機材を使うことが多くて。試したいのも昔の機材かな。古臭くかっこいいことをやりたいんです。
照明卓

照明卓

―使われてる照明卓(※12)が可愛いですね。
O 一番普通のやつですよ。どこのライブハウスでもある。ちょっと古いですけどね。他のやつはもうちょっと進化してます。もっとかっこいい卓もいっぱいあるけど、卓はあれが一番使いやすいかな。慣れてるから。
―卓をいじる手がピアニストみたいでした。音に合わせて動いてて。
O そんなことしてました?(笑) 音は記憶ですね。覚えてるものはできるけど。その時のノリでやったりもします。普通は小節とかキューシート(※13)に書くんですけど、曲によってはもう“ノリで”って書いたりする(笑)
抑揚を付ける部分とか「これいちいち書いてたらバカらしいな」って。「雰囲気でやっちゃおう」みたいな。後ろからのシルエットとか、下からの煽りとか、形で決まった明かりを出すんじゃなくて、その場の雰囲気で変えていこう、みたいなのはあります。
―照明で一番気を遣うことはなんですか?
O 明るさかな、やっぱり。煌々(こうこう)とさせない、目にいい明るさ。見ていて目に優しい感じ。
見る明るさをすごい気にしてる人っているんですよね。下からの明かりがまぶしくて目がやられるとか。だからライブの明かりのシーンができたら、自分はボーカルのところに行って、シーンをチェックして「あ、大丈夫。これはまぶしくない」とか「あ、これはちょっとまぶしいな」とか、時間がある時だけですけど、それはチェックします。
で、一応譜面も見えるようにするかな。
―譜面や歌詞を足元に置くアーティストもいますよね。調整が大変そうです。
O 前もトクマルさん(※14)に言われましたね。トクマルさんって、まぶしいのが苦手みたいで。でもトクマルバンドは周りに6人いて、その6人をちゃんと見せたいから、6人の方が明るいみたいな。
途中ソロの曲があったときに、もちろんトクマルさんに狙いを付けてたら「ちょっと暗い…」って。なかなか歌わないなぁと思ったら「ちょっと目が見えない現象が起こってる…」みたいな(笑)
―(笑)
O 結局足元に歌詞を置いてるから、それが丁度明かりに入ってなくて、見えなかったっていうだけでした。
あとは強弱と差。次の明るいシーンを強調させるために、めっちゃ明るくするシーンの前はわりとガツーンと落としたり。やっぱりメリハリを一番気にしてるかも。
(※12)照明卓
全ての灯体を操作する機材。大型の据え置きタイプから小型の持ち運びサイズのものまで種類は様々。
(※13)キューシート
キュー(きっかけ)が書き込まれている表。人によって様々な書き方がある。
(※14)トクマルさん
トクマルシューゴ。東京出身の音楽家。2004年、1stアルバム「Night Piece」をリリース。