place
anomura_tokyo_interview_www-11
日本 • 東京都 • 渋谷区
illustrated by © タジマ粒子

Introduction

ライブハウスは、生々しい音楽を楽しむ場だ。同時に、日常を離れたとてもロマンチックな空間だ。中でもWWWには特別な魔法がかかっている。とびきり中毒性の高いやつが。その魔法の謎を探るべく、今回、照明の大西さんにインタビューをお願いした。WWWの専属照明であり、奇妙礼太郎、シャムキャッツ、D.A.N.といった、数多くのアーティストの照明も担当している。これまでライブといえば音にだけ夢中になっていた自分が、大西さんの照明に出会って、初めて光に魅了された。今夜もまた、輝くミラーボールの下で、そんな出会いが生まれるのかもしれない。

Interviewee profile
大西郁子

1978年奈良県出身。大阪芸術大学付属短期大学卒業後、2000年株式会社共立に就職。2012年スペースシャワーネットワーク入社。ライブハウスWWW専属照明だけでなく、奇妙礼太郎、シャムキャッツ、D.A.N.、Yogee New Waves、Predawnなど、数多くのアーティストを担当。

“STAFF ONLY”の内側へ

―高校生のときはどんな音楽を聴かれてたんですか?
O ベタすぎるくらいJ-ROCKが好きで、一番はミスチルが好きでした。甲子園球場かな、ライブを観に行った時に“STAFF ONLY”みたいな区切りがあって。「これ、中に入りたいなぁ」と思って(笑) 「PASSしてる姿、めっちゃかっこいいな!」と思って。それが最初のきっかけ。ただのミーハーです(笑)
そう言いながらもいろいろ聴いてましたけどね。オアシスとかブラーとかグレイプバインとか。とにかく裏方になりたかったんです。
アーティスト:D.A.N.

アーティスト:D.A.N.

―それでなぜ照明を選ばれたんですか?
O 制作とかあったけど、当時はまったく募集してないって言われて。就職説明会か何かで、制作は募集がないから技術職の方がいいんじゃないかって。それで、こういうPA(※1)業界、照明業界にとりあえずワーって履歴書を送ったら、共立だけ引っかかったんです。
(※1)PA

Public addressの略称。音響機器の取り扱いに従事し、ライブハウスにおける効果的な音の跳ね返りや音質、音量などを管理する仕事。また、その仕事に携わるスタッフのことを指す。

―その時はもう照明の勉強をされてたんですか?
O 全然してないです。短大の授業で放送とか映画を撮ったりはしてたけど、まだ漠然としてました。とりあえずこういう業界で働きたいと思ってたけど、何っていうのはなかったです。
―まったくの未経験で就職されたんですね。
O 最初、照明の中でもいろいろあるから、どこの部署に配属されるかはわからないって言われました。施設とかテレビとか舞台とか。それで舞台になって、最初に行ったのがドリカム武道館
―いきなり武道館!
O それはほんと新人で、ただ見学に行っただけで。でもそこで感動しちゃって。
照明って仕込み図があって、みんなそれを見て照明を仕込むんですけど、最初それを見てもさっぱりわからなくて。みんな専門学校卒だからわかるけど、わたしは何も関係ない短大卒だから、まったく知識がなくて。
それでも武道館ってクールレイ(※2)って言って、超明るい客電(※3)が付いたらお客さんの顔がブワーッて見えるんだけど、あれ見た瞬間にもう感動して、泣いたんですよ。それで「あぁこの仕事を絶対やって行こう」って思いました。
(※2)クールレイ
日本武道館の天井に設置された、とても明るい白色の照明。
(※3)客電
客席にあてられる照明のこと。
WWW専属照明・大西郁子さん

WWW専属照明・大西郁子さん

―ライブ以外の照明も経験されたんですか?
O ダンスの仕事をずっとやってました。だから今でもダンスはめっちゃ好きです。習っとけばよかったなぁって思うくらい(笑)
最初の頃はミュージカル班に属すことが多くて、ブロードウェイのミュージカルが来日して渋谷の文化村とか国際フォーラムで一か月くらい公演することがあったり、東京、大阪、名古屋なんかを外人と一緒に回ってピンスポットを焚いたりするわけですよ。インカム(※4)して本番やるんだけど、英語でキュー(※5)が来て、そこに通訳が入って。それはライブと違う楽しさがありました。ミュージカルも大好きですね。
―ミュージカルの方が大変そうですね。
O もうすごいですよ。仕込みも数がハンパじゃないから。シーンもすっごい変わるし、セットもすごいし。みんな袖でワタワタしてて。
照明も明るさを綺麗に出すために、ちょっとした度合いにこだわったり。狙ってるところとか、エッジ(※6)って言うんですけど、ぼやかし方とか…。わたし、今ライブの照明をやってて微妙な明るさの加減にこだわるのは、ミュージカルの経験から来てるのかもしれない。今思いました。
(※4)インカム
ヘッドフォンとマイクが一体になっている無線機器。ドームクラスのコンサートになるとこのインカムを通してキューを聞くことで場内にセットした30本ほどのピンスポットが同時に明かりを出したり消したりすることができる。
(※5)キュー
照明が変化するタイミングのこと。「きっかけ」とも呼ばれる。
(※6)エッジ
輪郭のこと。フォーカスを操作し、灯体に仕込んだ模様の輪郭をはっきり出したりぼかして出したりできる。
―大西さんの照明って、時々風景っぽく見えたりしますけど、それもミュージカルの経験あってなのかもしれないですね。バンドのバックに夕日を映したり、ミラーボールで星空を表現したり。
O あるのかもしれないです。
一番楽しかった仕事もミュージカルかも。スタッフと仲良くなるから、別れの時なんて号泣するし。
―昔と今の照明で変わったことはありますか?
O 基本変わってないかもしれない。例えばWWWに入りたての時と今の照明って言われると、多分基本的なところでは変わってないと思います。
やってることは昔と一緒なのかもしれないけど、場数が増えてきて、いろんな場所でやったり、そのアーティストともいっぱい関わると、こう見せたらかっこいいとか、お客さんはここでこういうリアクションを取るんだ、とかはわかってきますね。
―照明として今後やってみたいお仕事はありますか?
O 大きい現場も経験したいです。例えば海外のアーティストのライブって莫大な量の照明だし、真新しい機材だし、システムも最新だし、そういうのを勉強しに行きたいですね。自分でライブを見に行ったりもするけど、見ると触れるでは全然違うから、大変だけど一から仕込んでやってみたいですね。
―ゆくゆくは担当しているアーティストがドームでやるとなったら。
O ライブハウスの広さでキャパオーバーになるわけにはいかないですね。こないだもドームクラスの照明ってどういう感じなんだろうと思って見に行きました。
―今後、照明以外でやってみたいことはありますか?
O 海外に留学したい。普通に英語とか勉強しに行きたいです(笑)
提供:大西さん

提供:大西さん

2016.Summer WWWにて
conclusion

柔らかい関西弁と気さくな雰囲気、そして照明やアーティストに対する愛情。今回インタビューさせていただいたことで、魔法のレシピの一部を知れたような?と同時に、さらに大西さんの照明の虜になってしまったような。
先日2号店であるWWW XがオープンしたばかりのWWW。最先端の光と音によって、これまで以上にたくさんの音楽ファンたちを興奮・熱狂させてくれるはず。