anomura

すてきな声に、会いにいこう
Illustrated by © 2017 タジマ粒子 / TAJIMA PARTICLE
Introduction
話のあいまに何度も繰り返されたことば。 「大前提は、子どもにとってどうなのか」 では、大人は? 「環境をつくるだけでいい」 サッカーあるいは教育にかぎらず様々な分野でトップダウン/ボトムアップの方式が見直される現代において、 SEIKAのスタイルは明らかに他と一線を画しているように思う。 “「遊び」と「環境」だけ与えれば、子どもは伸びていく(金田喜稔)” 現サッカー解説者のことばが示す場所を、ひとつの花園と見立てたとき、そこでの「遊び」また「環境」とは何か。 同中学校サッカー部のコーチ、山本悦史さんに声を聴く。
Interviewee profile
山本悦史

京都生まれ、滋賀育ち。
現京都精華女子中学高等学校サッカー部コーチ/立命館大学大学院社会学研究科所属。
研究のテーマは「プロスポーツクラブの地域戦略とイノベーションのジレンマ」について。

精華からSEIKAへ

-これまでいち精華のファンとしてお話を伺ってきましたが、同時にいちサッカーファンとしてはやはり精華から“なでしこ”へという期待も抱いてしまうのですが。
Y うーん。あの子ら“なでしこ”の試合見てるんかな。他のところ(なでしこや男子サッカー)からも良いと思ったプレーは勝手にどんどん取り入れてほしいので見て欲しいとは思っているんですけど…けっこうな割合で見てないと思います(笑)その時教わったこととか、いま目の前にあるサッカーは大事やと思うんですけど。他の夢を目指しているからなのか、その雰囲気が苦手なのか、トレセンの選考会にすら行かない子もいたりとか。
-なでしこジャパンや海外のプロリーグを“指”して“導”くこともないのでしょうか?
Y まず学校自体に色々コースがあって(※1)、スポーツ科学みたいなのもあるし、看護医療もある。だから夢いろいろで例えば看護士を目指して看護学校に行った子もいる。パティシエール選択というコースもあるので、皆でお菓子をつくったり、料理をつくったり。能力的には代表行けるって子に「将来の夢何?」って聞いたら「専業主婦」って言ってたり。「まあ…それは…でも目指しては欲しいけど」って、「こっちとしては」とかは言うけど、サッカー選手もやはり夢の一つでしかないというか。サッカー人間を作ってるわけではないので、ひとりの人間、まぁ女性としてどう生きるかという次元でその手段の一つとしてのサッカーなので強要はしたくないですね。 サッカーはずっと続けて欲しいけれど。
(※1)京都精華女子のコース分け
京都精華女子の中等学校には「エキスパート」、「ヒューマン」、「アート」、「スポーツ」といった4つの“クエスト”が、高等学校には「総合進学」、「美術進学」、「看護・医療系進学」、「人間科学スポーツ系進学」、「EX-特進」といった5つの“コース”がそれぞれ設置されており、中高6年一貫教育の根幹を特徴づけるものとなっている。各クエスト/コース詳細は同校のHPまで。
-そこが凄いと思います。
Y だからテスト前になれば勉強もしろって言いますし。補講かかれば出さへんということも言いますし、それを言わずにスタメンを外すこともします。外された本人はそれに気付いていると思いますけど。
-ひとりの人間、あるいは学生として。
Y 行きたい子にはやっぱり“なでしこ”まで行って欲しいですけどね。というか行ける子には。そこは想定してトレーニングしていますけど、そこだけに判断基準が特化すると、他の可能性を見捨てることになるので。それはちょっと違うだろう、と。やっぱり相対化が必要な部分はあると思うんです。ただみんなに言っているのは「みんなが全国に出んと日本のサッカーは変わらへんよ」って。「みんなで変えるぞ」っていう言い方はしています。要は「日本のサッカーって面白くないやろ」って。なでしこリーグも結局INAC(※2)がずっと独り勝ちしちゃってる状態なので。
(※2)INAC神戸レオネッサ
兵庫県神戸市をホームタウンとするサッカークラブ。「なでしこジャパン」の澤穂希、川澄奈穂美らを擁し、目下なでしこリーグ2011-13シーズン3連覇中の強豪。
-海外のサッカーで言えば、少し前のバルセロナのような。Jリーグ発足当時のヴェルディ川崎などもそうでしたよね。
Y 「他にも男子のサッカーとか海外リーグとかもある中で、じゃあなんで女子サッカー見るねん」って。そういう時に「みんながサッカーやっていけば、ある意味ちょっと面白いって思ってくれる人はいるよ」って。
-トンカチならぬヴィジョンも預ける。
Y 女子サッカーの未来というか、だれが夢を抱くかという。僕自身はずっと描いていますけど、現状として男子に比べて女子サッカーってやめるリスクが格段に多いんですよね。身体的な意味で脂肪も増えてくし、妊娠することだってある。それで一回確実にやめなきゃならない時がくる。また、なでしこリーグも経済基盤がしっかりしているわけではないから、サッカーを続けていくこと自体が難しい。チームの絶対数も少ないし。こういった現状のなかで僕たちができるのは場を作る。その意味でAC .SEIKA(※3)というチームを作ったというのもあります。
(※3)AC .SEIKAの理念

プレーだけでなく、サッカーを通じての出会いや社会貢献も設立の目的の一つであります。また、スクール活動もやっておりますが、子供たちだけでなく保護者の方やサッカー好きのみなさんも参加できる遊び場を提供しています!私たちのモットーである笑顔溢れる楽しい場、AC(Athletic Community)を発展させていきたいと考えております!

(同クラブHPより引用)
-AC SEIKAですか。
Y 部活動の上のクラスで卒業生が中心となって、みんなでサッカーしようというチームですね。そういう場所をつくることによって、さらに中学生の出場機会も増えるというか。まあ卒業生がやる場、あと地域の人が入ってこれるような場をつくろう、というのが一番の目的ですけど。
-ACなんですね。SCでもFCでもなく。
Y はい、アスレチック・コミュニティ。クラブというと閉鎖性があるけど、コミュニティやったら地域のひとも入りやすい。中学生に言うのは「参加してもいいけど、そこはお前らのための場所じゃないから、お父さん・お母さんと一緒に来るやつだけは参加してもOK」って(笑)
-時にはシビアに(笑)
Y もちろん、送迎の安全性とかも含めてですけどね。そしたら自然と小学生とウチの子らがサッカーをする機会も勝手に生まれていく。そこで「精華来たいな」って思ってくれる子たちがでてくる。それならば学校側にとっても施設を貸し出す理由になる、というか。
-入り口が広い分、希望者も多いと思うのですが。じっさい今キャパの方はどれぐらいなんでしょう?
Y ギリギリですね。いまはもう体育館もいっぱいになったから、グランドを使ったり。曜日を増やせばできないこともないですけど。
そういう時に「みんながサッカーやっていけば、ある意味ちょっと面白いって思ってくれる人はいるよ」って。

そういう時に「みんながサッカーやっていけば、ある意味ちょっと面白いって思ってくれる人はいるよ」って。

-教える方は?
Y ボランティアのような形で精華を卒業した大学生たちが入ってくれています。そこで参加費をとって運営を行いながら彼女たちが試合に出る際の登録費(大会参加費)に回したりすることもある。
-なるほど。教える方たちにとってのコミュニティでもあるわけですね。
Y 大学生にとっても社会人としての力を身につける場所になっているのではないかと思います。設立当初と比べたらトレーニングの内容も参加者の方々に対するコミュニケーション能力も見違えるレベルになっています。あと、もう一つはトレーニングの話なんですけど。蹴って走るサッカーだったんですよ、これまでの女子サッカーって。身体能力高いチームが優勝するような。そうすると逆説的に走れなくなったらやめてしまう。だから、精華での理念をそのままにAC .SEIKAでも“止めて・蹴る”を重視しようと。まあ教えるというよりは、みんなで一緒にボールで遊ぼうってことなんですけどね。
-たしかに“止めて・蹴る”だと走れなくなっても…
Y 生涯スポーツとするために、“場を作る”ということと同時に技術的な側からもアプローチをしかける。止めて弱いボールでも失わなければなんとか戦えるというか。勝ち負けの話とも関わりますが、負けておもんないからじゃなくて、負けたらどうするかっていうマインドも植えつけとく。そうするとサッカーを好きになるし、やめなくてもすむ。
-何歳になってもできる。
Y まあ、やめる要因を一個減らせる。だからそういうサッカーになっていくという順序ですかね。あくまで僕の中では、ですけど。
-生涯スポーツに取り組む人たちが増える=今後、場所の取り合いになるという可能性に関してはどう思われますか?
Y AC.SEIKAができる前はセキュリティの問題で夜、学校を誰も使っていませんでした。「もったいないやん」ってなって。だから、このACの設立は学校開放の意味も込められているんですよ。キャパはこれによって増やしたという言い方がまずできる。それが上手く使えてるかっていうのは今後の問題ですけどね。あとACってしたのはサッカーだけじゃなく、アスレチック、遊び場という部分を強調したかったというのもあります。
-これまでの部活動とは違ったカタチの。
Y サッカーに限らず、ラグビーだったりバスケだったり学校には色んなスポーツの指導者がいらっしゃる。もちろん先生なのでみな忙しいとは思いますが、社会にはたくさんの卒業生たちもいる。あと教室も夜は空いてるし、体育館もグランドも空いてる。スポーツをするための道具もひと通り揃っている。だから、学校ってなんぼでもやれることあるなって。例えば、そのような場に地域の方々が気軽に立ち寄れるような仕組みを考えたりとか…
-面白い。それはまさに従来の学校というものを…
Y どう作り変えるかという問題ですね。
2013.10.11 磯料理磯亭にて
Place info:
京都精華女子中学校・高等学校サッカー部
京都精華女子中学校・高等学校サッカー部
〒606-8305 京都府京都市、左京区吉田河原町5−1

沿革
2004年 創部

【中学】
2009~2013 全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権大会京都府大会 5連覇
2009~2011 全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権大会関西大会 ベスト4 
2012 全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権大会関西大会 優勝
2012 全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権大会 ベスト16
2013 全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権大会関西大会 3位
2013 全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権大会 ベスト16

【高校】
2008~2013 全国高校選手権京都府予選 6連覇
2009~2011 全日本女子ユース(U-18)サッカー選手権大会関西大会 準優勝
2012~2013 皇后杯全日本女子サッカー選手権大会京都府大会 優勝
2009 全国高等学校女子サッカー選手権関西大会 3位
2010 全国高等学校女子サッカー選手権 出場
2012 全国高等学校女子サッカー選手権関西大会 4位
2013 全国高等学校女子サッカー選手権3位
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“京都精華女子中学校・高等学校サッカー部。山本悦史さんインタビュー” への2件のフィードバック

  1. 久保田 悦史 より:

    環境を与えるだけ。や、生徒のやりたいように。というフレーズが印象的でした。仕事にも役立てさせて頂きます。
    ありがとうございました。

  2. 久保田さんへ

    こちらこそ、読んでいただいてありがとうございました。
    「言うは易く行うは難し」を地で実践していっているのが、SEIKAのすごいところだなぁと。
    4月に、また違った(サッカー関連の)インタビューをアップする予定なので、今後ともよろしくお願いします。

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